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特定の子に財産を相続させないことはできるのか?

中村正彦

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 「あいつ(特定の子)には財産を1円もやりたくない」「勘当できないのか」といった相談を受けることがありますが、こういったご相談の背景には「あいつには散々援助をしてきた」「私のことを経済的に虐待している」等々、様々な理由があります。
 この点、明治憲法下では民法に「勘当」の制度がありましたが、現行民法では実子の場合、親子関係自体を断絶する制度はありません(普通養子縁組の場合には離縁の制度があり、親子関係の解消が可能です)。
 そこで私たち弁護士は、通常、遺言書の作成を提案することになります。遺言内容としては、他の推定相続人(本人死亡後に相続人になることが予定されている方)に多くの財産を振り分けたり、お世話になった方、あるいは社会福祉法人や母校への遺贈など様々な遺言が考えられます。
 しかしながら、兄弟姉妹を除く相続人には、「遺留分」といって、最低限度の取り分が保障されており、子の場合は、法定相続分の2分の1が遺留分になります。そのため、遺留分を侵害する遺言が作成されても、遺留分を侵害されたお子さんは、より多くの財産を取得することになる相続人や遺贈先に対して、侵害された遺留分侵害額を請求することができます。
 これに対して、「先生。あいつには遺留分も残したくないんです。何とかなりませんか」とのご質問をいただくこともあるのですが、基本的には「できません」との回答をせざるを得ません。
 ただし、以下のような場合には、子であっても、例外的に遺留分を取得することができません。

相続人に欠格事由(民法891条)がある場合

 相続人が、民法が定める以下の欠格事由に該当する場合、当該相続人は相続権を剥奪されます。

① 被相続人や同順位以上の推定相続人を故意に死亡させた場合
② 被相続人が殺害されたことを知って告訴や告発を行わなかった場合
③ 詐欺、強迫によって、被相続人の遺言を妨げたり、撤回・取り消し・変更をさせた場合
④ 被相続人の遺言書を偽造、変造、破棄、隠匿した場合

 ただ、①や②は殺人事件のような極めて異例の事態が発生した場合であり、③④についても、そうあることではなく、しかも立証は相当に困難です。非常に限定された場面でのみ適用が検討される規定であるといえます。

 なお、子に欠格事由があり、相続権が剥奪された場合であっても、当該子の子(ご本人から見ると孫)の相続権には影響しません。
 したがって、当該子が被相続人より先に死亡している場合、通常どおり、孫に相続権が発生しますから(代襲相続)、この点、注意が必要です。

推定相続人廃除の手続を経ている場合

 遺留分を有する相続人が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、またはその他の著しい非行があった場合には、被相続人は家庭裁判所に推定相続人廃除の請求をすることができます(民法892条)。
 「被相続人に対して、繰り返し暴行を加える、度が過ぎる暴言を日常的に繰り返す」、「被相続人名義の預貯金の多額の使い込み」、「ギャンブルのために借金を繰り返して、その借金を被相続人に肩代わりさせる」などの行為が推定相続人にある場合、当該推定相続人の廃除が認められる可能性があります。もっとも、推定相続人廃除は、相続人としての権利を失わせ、遺留分の主張もできなくなるという、推定相続人にとっては重大な結果が生じる例外的な制度ですから、家庭裁判所が認める確率は、それほど高くありません。
 推定相続人廃除の手続は、生前に被相続人が自ら家庭裁判所に調停や審判を申し立てる方法のほか、遺言で行うことも可能です(民法893条)。この場合は、遺言執行者が被相続人の死後に家庭裁判所への申立をする必要があります。遺言書に「私のことを虐待した」「著しい非行があった」などと抽象的に書いているだけでは、廃除を認めてもらうことは困難です。そのため、遺言書または陳述書などに具体的な事情を記載したり、あるいは、具体的な事情を裏付ける証拠を遺言執行者となる人(弁護士など)に預けたりすることにより、死亡後に廃除が認められるよう綿密に準備をしておく必要があります。
 なお、遺留分を有しない兄弟姉妹については、遺言で兄弟姉妹以外の者に相続させれば足りるため、この規定の対象とはなっていません。
 また、推定相続人の廃除が認められた場合も、当該推定相続人の子(孫)には影響がなく、欠格事由がある場合と同様に、代襲相続は発生します。

遺留分放棄の手続がなされている場合

 遺留分を有する相続人は、被相続人の生前に家庭裁判所の許可を得て、あらかじめ遺留分を放棄することができます(民法1043条1項)。
 推定相続人廃除の手続と異なり、遺留分を失う者自身による手続であるため、その主体は遺留分を有する相続人であるお子さん自身です。当然のことながら、お子さんが納得していなければ、この方法は使えません。もちろん、無理矢理遺留分を放棄させることはできませんし、「子から遺留分放棄の念書をとって下さい」などと依頼される方もいますが、生前の遺留分の放棄には家庭裁判所の許可が必要ですので、家庭裁判所の許可がない以上は、念書をとっても意味がありません。
 家庭裁判所では、遺留分放棄の許可を認めるためには、放棄が自由意思に基づくものであることや、放棄に必要性・合理性があることが必要であると解しています。放棄に代償があるかどうかを考慮することもあるようです。
 なお、遺留分放棄が裁判所に認められたとしても、相続権そのものを失うわけではなく、相続人であることに変わりはないため、あわせて、その方に財産を相続させない旨の遺言書を作成しておかなければ、法定相続に基づいた相続分を取得させることになってしまいますので、ご注意ください。
                                  弁護士 上 将倫

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中村正彦(弁護士)

弁護士法人 松尾・中村・上法律事務所

依頼者の心に寄り添って、依頼者とともに最良の解決を目指すことを旨とし、その取り組みは丁寧で粘り強い。法的に最終的な解決まで実現できるのは、法律の専門家である弁護士ならではの強み

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