住まいの終活と住教育⑤~空き家の売却~

菊池浩史

菊池浩史

テーマ:空き家と住まいの終活

(はじめに)
住まいの終活の選択肢の一つに、自宅の売却があります。親世代が長生きするようになった近年では、相続時には子ども世代も既に自宅を所有していることが少なくありません。また、相続した実家が遠隔地にあるため、それを相続して使用する動機づけは低いと思われます。そのため、売却という選択肢が今後増えることが予想されます。

そこで、今回は自宅(実家)を賢く売却する方法について考えてみます。

(事前準備)
自宅の売却は、そう簡単に意思決定できるものではありません。事前準備が欠かせません。

一つ目は、全資産を棚卸しした上で、親が存命であれば親を含め、家族がしっかりと話し合い、売却する方向を決める必要があります。様々な思いが詰まった住まいです。もしかしたら、売却以外の活用の方がベターということだってあり得ます。時間を十分掛けて良いと思います。

二つ目は、自宅(実家)を売却しようとした場合の課題を洗い出して、できる限りの解消を図っておくことです。例えば、共有や借地権などの権利関係をどこまで整理できるか、あるいは、境界確認や変更登記等が未了であれば、事前に済ませておくことがお勧めです。

三つ目は、自宅(実家)にある家財等の整理、いわゆる断捨離です。長年暮らせば想像以上に荷物が多くなっています。一般的には、建物内の家財等の少ない方が売却はスムーズに進むことが多いと言えます。これにも直ぐにできるものではなく、相応の時間を要します。

(仲介か買取か)
自宅を売却する場合、宅建業者に依頼することが殆どだと思われます。依頼方法は、買主を探して貰う仲介契約と宅建業者が購入する買取契約がありますが、出来るだけ高く売却するのであれば、仲介契約で買主を見つけることをお勧めします。

買取契約の多くは転売目的です。そのため見込んだ転売価格からリフォーム代などの経費や利益を控除して買取価格を決めるため、市場価格に比べ2~3割低くなります。一方の仲介契約は成約価格が高ければ仲介手数料も高くなるため、宅建業者は高く売りたいという動機づけが強くなります。

ただ諸般の事情で売り急ぐとか、持ち出しさえしなければ価格に関わらず手離したい、市場性が劣るといった売却に苦戦するような物件であれば、宅建業者に買い取って貰うことも一つの選択肢と言えます。

(囲い込み対策)
双方代理は民法で禁止されていますが、宅建業法では売主と買主の双方から仲介の依頼を受けることができます(両手仲介)。

両手仲介の中には、売主から売却依頼を受けた宅建業者が、他社から問合せがあっても「商談中」などと嘘をついて物件紹介をしない、いわゆる囲い込みが行われることがあります。このような行為は売却機会を逃すことに繋がり、買主の利益を損なう恐れがあるため、宅建業者の忠実義務違反として業法で禁止されています。

囲い込みを防ぐために、「片手取引でも良しとしますか」「囲い込みをしないためにどうしていますか」などとストレートに質問して反応を見ても良いかもしれません。また、専任媒介契約などをしてレインズに登録した場合に、レインズの売主向けの画面から次の項目を確認してみて下さい。
・取引状況の項目が「公開」になっていないか。
・図面チラシが「登録」になっているか
・必須項目以外も「登録」されているか

(高預かり対策)
高預かりとは、仲介の依頼を受けたい宅建業者が、相場を超える査定価格を提示して売主を誘引する行為です。売主からすれば高い査定価格の提示を受ければ期待をして、ついつい依頼したくなりますが、そこは注意が必要です。

物件が持つ実力以上の価格で売り出せば反響も少なく、市場に滞留する期間が長期化し、物件の鮮度が落ちて魅力が削がれます。そうなると売出価格の見直しが迫られ、ダラダラと値下げを余儀なくなれます。

高すぎる査定価格に釣られないためには、査定を複数から取り、その算定根拠をしっかり確認して下さい。特に、極端に高い価格を提示する宅建業者は避けるのが賢明です。それと同時に、インターネットなどを活用して、相場観を養っておくことをお勧めします。

(売却のタイミング)
空き家の売却が通常のそれと異なる点は売却のタイミングであり、できうる限り早期に行うのが原則です。個別の事情により売却のできる時期は異なってきますが、次のような時期が一つのタイミングだと思われます。

一つ目は、相続発生の前後です。関係者が自宅や実家への関心の高まる時期でもあります。反対にこのタイミングを逃すと徐々に関心が弱まっていき、関係者による意見調整も難しくなるリスクが高まります。

続いて二つ目は、所有者の高齢化による認知症などの意思能力を喪失してしまう前です。日本では2025年に約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されています。意思能力を喪失すれば、売却などの法律行為が大幅に制限されます。

それから三つ目は、税負担を軽減できる特別控除が受けられる期間内での売却をお勧めします。例えば、空き家の3000万円特別控除を受けるには、空き家になってから3年を経過する年の年末までに売却することが要件になっています。

(まとめ)
以上から、空き家の売却においても不動産会社選びが重要になることをお分かり頂けたかと思います。但し、空き家の中には宅建業者が扱わない、扱いたくない物件は少なくありません。寧ろ、そういった物件で悩んでいるケースが多いのではないでしょうか。
次回は、そのような物件の売却を考えてみます。


以上

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菊池浩史

住まいの消費者教育研究所

住まいにまつわるビジネス経験や、不動産鑑定士としての専門的知見を活かし、顧客ファーストで「住まい教育」を普及・実践。住まい選びやメンテナンス、そして家仕舞いまで、ワンストップでトータルサポートします。

菊池浩史プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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