重要事項説明書と売買契約書の事前チェックの重要性
令和4年5月18日、令和3年5月に成立した重要事項説明書等の電磁的方法による提供を可能とする宅建業法の関連規定の改正を含む「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」が施行されます。
【ここに至るまでの経緯】
ここに至る経緯は以下の通りです。
有識者や実務者からなる国土交通省の「ITを活用した重要事項説明等のあり方に係る検討会(平成26年4月24日~)」の「最終とりまとめ」を受けて、平成27年8月31日からIT重説に係る社会実験が開始されました。その結果、IT重説の実施に支障がないという検証結果を受け、賃貸取引は平成29年10月1日から、売買取引も令和3年3月30日から本格運用へ移行しました。
さらに、令和元年10月1日から賃貸取引について、重要事項説明書及び賃貸借契約書を対象として電磁的方法による提供に係る社会実験を開始され、続いて、売買取引についても媒介契約書を加えた上で、令和3年3月10日から社会実験が始まりました。
これらの社会実験の結果等を踏まえ、議論・検討を行い、重要事項説明書、契約書(売買・賃貸・媒介)といった書面を電磁的方法により提供することが可能となりました。
【主な改正内容】
重要事項説明書等の電磁的方法による書面交付を可能とすることに伴い、以下の改正が行われました。
〇宅地建物取引業者が書面を電磁的方法で提供する際に用いる方法
(電子メール、Web ページからのダウンロード形式による提供、USBメモリ等の交付など)
〇宅地建物取引業者が書面を電磁的方法で提供する際に適合すべき基準
(書面に出力できること、電子署名等により改変が行われていないかどうかを確認できること など)
〇宅地建物取引業者が、書面を電磁的方法で提供する場合に、あらかじめ相手方から承諾を得る際に示すべき内容
(電磁的方法で提供する際に用いる方法及びファイルへの記録形式)
〇宅地建物取引業者が書面の交付を受ける相手方から承諾を得る際に用いる方法
(電子メール、Web ページ上の回答フォーム、USBメモリ等の交付など)
【今後に期待すること】
重要事項説明書等の電磁化は、仲介事務の効率化に過ぎずDX(デジタル・トランスフォーメーション)とまでは言えないという見方もあります。今回の改正によって、依頼者は指定された日時や場所に必ずしも出向く必要がなくなり、利便性は間違いなく向上します。しかしながら、不動産のDXの推進には更なる不動産情報の整備とその有効活用が必要になってきます。
日々の実務で強く感じる不満一つが、行政の縦割り(部門間)と横割り(国と都道府県と市町村)のよる関連情報のぶつ切り、という状況です。都市計画など法令上の制限に関する情報のデジタル化は徐々に進んでいますが、まだまだネットによる情報収集には限界があります。特に、府県と市町村の所管の違いなど、役所間や役所内の部門間における情報管理の縦割りに辟易することが少なくありません。だからこそ情報の一元化が実現すれば、その効果は甚大です。更に、登記情報、都市計画情報、価格情報などのシステムがつながっていけば、事業者と消費者双方にとって、情報の利用価値が高まります。
【まとめ】
社会システム全体がデジタル化に大きく舵が切られる一方で、不動産業のDXは決して進んでいるとは言えません。その原因として、不動産は世の中に同じものが二つとして存在しない、という強い個別性があります。そして、宅建業法により業務内容や手順などが細かく規制された業界であり、変化のスピードに追随しづらいことも考えられます。
このような特性のある不動産業界ですが、今回の法令等の改正がDX化への追い風になることは間違いありません。それは同時に、事業者と消費者の情報の非対称性が緩和され、消費者の正しい理解と選択ができるチャンス到来と捉えるべきではないでしょうか。