不動産会社と消費者の情報格差を埋めるための伴走型コンサルティング
どの世界にも程度の差こそあれ、事業者と消費者の間には情報の非対称性が存在します。中でも不動産取引は、取引に専門的な知識がより要求されるため、売主と買主の間に存在する情報格差は大きいと言えます。どのような情報をどのように提供すれば解消を図ることができるのでしょうか。宅地建物取引業法の重要事項説明を例に考えてみます。
短期的な対策では、重要事項説明に対する消費者の理解を助けるツールの開発や、第三者サービスの活用などが考えられます。そして、長期的には住まい教育の普及を図り、不動産取引に関する基礎知識の普及が大切になってきます。
(重要事項説明の課題)
平成18年12月に国土交通省から発表された「不動産取引における消費者への情報提供のあり方に関する調査検討員会の報告書」から現状の主な課題を取り上げます。
課題の一つが重要事項説明書の説明時期です。宅建業法では「契約成立するまでの間に説明する」と規定されています。しかし、消費者の大多数は、契約の一定期間前の説明を望んでいるにも拘らず、現実には半数以上のケースで「契約の直前」に説明されています。事後の紛争防止という重要事項説明の趣旨からすれば、契約直前の説明では買主がしっかりと検討できる時間的余裕はありません。
二つ目の課題は、重要事項説明のどの項目が自分にとって重要なのかが分かりにくい点です。数多くの項目の説明をされても、何がポイントかを理解できなければ、取引上のリスク回避が十分とは言えません。
(重要事項説明書の事前交付のメリット)
同報告書でも指摘されているように、買主等は重要事項説明書を事前に受け取り、内容を検討・確認した後で重要事項説明を受ける方が本来の趣旨に沿っています。そうすれば不明な条文や文言を自分で調べるとか、第三者に確認することも可能です。その結果、購入の意思決定に必要な判断材料やリスク情報を事前に入手できます。
一方、住宅の賃貸借契約の場合は、物件案内したその日に契約まで済ますことを希望する借主もいます。その意味では取引の事情や買主の意向などを考慮して、重要事項説明書の交付時期は柔軟な運用を図る必要があると考えます。
また、事前交付は宅建業者にとってのメリットもあります。契約直前の重要事項説明では、買主等にとって何が重要な項目かが宅建業者には分かりにくくなります。買主等により項目の重要度や関心に差があって当然です。宅建業者の立場からすれば、買主等が関心の高い項目を知ることで、重点的かつ丁寧な説明がし易くなります。
以上、重要事項説明を例に不動産取引における情報の非対称性について考えてきました。情報格差の原因の一つに、「契約の直前」という説明の時期があるため、買主等の理解を促すためには事前交付の必要性を指摘しました。そうすれば、買主等には取引に伴うリスク把握と事前対応、宅建業者も買主等に重点的に説明するポイントが把握しやすくなることが期待できます。