使われる空き家バンク・使われない空き家バンク
1.はじめに
空き家の増加が大きな社会問題になっています。国や地方公共団体は、空家等対策の推進に関する特別措置法や条例による対策に取り組んでいます。また、民間企業でも空き家をビジネスチャンスと捉えた様々な事業に着手しています。
その内容は、空き家管理の適正化、空き家の流通や活用の円滑化など、多くが空き家になった後の事後対策です。空き家発生を予防する事前の取組みは、まだまだ不十分です。事前対策は自宅の所有者にとって魅力がないからなのでしょうか。空き家の発生原因、経済的・心理的負担、時間の経過と空き家対応の難易度などの視点から、事前対策と事後対策を比較してみます。
2.空き家とは
空き家の全てが問題ではありません。住み替え需要に対応するには、受入れ先として一定数の空き家が必要になります。では、どのような空き家が問題となるのでしょうか。
国土交通省の住宅・土地統計調査によれば、空き家は、①賃貸用の住宅(賃貸のために空き家になっている住宅、②売却用の住宅(売却のために空き家になっている住宅)、③二次的住宅(別荘及びその他(たまに寝泊りする人がいる住宅)約)、④その他の住宅(①~③の他に人が住んでいない住宅で、例えば、転勤・入院などのため居住世帯が長期にわたって不在の住宅や建替えなどのために取り壊すことになっている住宅など)に分類されます。
賃貸用住宅や売却用住宅は事業用の資産として管理されており、二次的住宅はそもそも常住する性格のものではないのに比べ、「その他の住宅」は個人所有が多く、長期不在や取り壊し予定のものが多いと推察されます。近年、「その他空き家」が大きく増加する傾向にあります。よって、対策を必要とする空き家の中心は、その他空き家と言えます。
3.空き家になった理由
(株)価値創造研究所が平成25年に行った調査(空き家を所有する2187名を対象)によると、空き家になった理由で最も多いのが親所有の住宅を相続したことによるもので、全体の44%と半数近くを占めています。続いて、自身の住み替え前の住宅が空き家になっているからが24%となっています。この結果からも相続時がターニングポイントということが分かります。
4.経済的・心理的な負担
管理不全な放置空き家は、建物の劣化が確実に進行します。その結果、防災面では、火災の発生、家屋の倒壊、外壁材などの飛散や落下などのリスクが高まります。防犯面でも、犯罪の発生や誘発、不審者の不法滞在などが発生しやすくなります。更に、ごみの不法投棄、雑草の繁茂などの生活環境の悪化を進行し、次第に地域の良好な景観も悪化します。
そして、空き家の所有は新たな維持管理コストが生じます。
①空き家でも公租公課(固定資産税や都市計画税)の納税義務
②定期的(あるいは時々)に行う自宅の点検や換気、修繕のために、電気や水道が必要で、少なくとも基本料金の負担。
③万一の損害発生に備えるための火災保険料
④空き家になれば建物は傷みやすくなり、その修繕費用
⑤建物管理を業者に委託すれば管理委託料
⑥今の居住地と離れた場所に空き家があれば移動のための交通費
空き家が原因で事故や被害が発生した場合は、損害賠償責任を発展する可能性があります。
その他、空き家対策特別措置法の特定空き家に指定され自治体から改善の指導勧告等を受けることもあります。更に氏名等が公表されることで、社会的制裁を受けることもあり得ます。
このように、空き家は経済的負担のみならず心理的負担まで負うことになります。
5.行政が行う空き家対応
自治体の空き家対策には、空き家の実態調査、データベースの作成、空き家関連条例の制定、空き家バンクの創設、改修支援、除却支援、協議会、相談体制の構築などがあります。
このうち空き家バンクは、自治体が、空き家の賃貸や売買を希望する所有者から提供された情報を集約し、それらを利用・活用したい者に紹介する制度です。自治体は仲介業務ができないため、宅建業者等と連携するケースもあります。
詳しくは、国土交通省の「全国版 空き家・空き地バンク」のモデル事業に採択された「L【ホームズ】空き家バンク | 地方移住・田舎暮らし向けの物件情報 (homes.co.jp)」や「全国の 空き家バンク から物件を検索【アットホーム 空き家バンク】 (akiya-athome.jp)」は、全国の自治体が管理する空き家・空き地の情報が閲覧できます。
但し、空き家バンクの活動状況は様々であり利用にあたっては、「どこと連携してどのような情報収集や情報発信をしているか」、「地域外の購入者への受け入れ体制がどこまで整備されているか」といった実績をしっかりと見極めることも大切です。
他に、自治体の中には建物の解体や改修へ補助金を支給したり、建物解体後の更地の固定資産税の増税を猶予するといった税制優遇策が行われたりもしています。
6.事後対応と事後対応
自宅所有者が空き家対策をする場合、経済的負担、精神的負担、時間的負担、関係者の合意形成の観点から事後対応と事後対応でどのように差があるかを考えます。
先に触れたように空き家になれば、建物の老朽化が進むことによる修繕費、不在による追加的な維持管理費、公租公課の特例の適用除外、他者への損害に対する賠償責任など事前に対応していれば避けられた経済的負担の確立が高まります。
経済的負担は精神的な負担にもつながりやすいものです。近隣関係や行政からの指導や勧告など所有者だけで解決が難しい問題は特にストレスを高めます。同時に解決までに時間を要します。更に、時間が経過し相続発生などで新たな所有者や関係者が現れることがあります。そうなれば合意形成の難易度が高くなります。
このように事前対応の方が、経済的負担等が少なく関係者の合意形成も比較的容易です。また、時間の経過に伴い建物の老朽化が進めば、建物やその影響に対する関心が薄れていくと考えられます。
以上から事前対応すれば良いという結論になります。空き家問題に限らず「予防」へ積極的に取り組むことは簡単ではない。具体的な話になると気が重くなりがちです。間の意識や行動は容易に変わり尾ません。しかし、事前対応への意識変容や行動変容に取り組む事例もあります。
7,岡山・空き家を生まないプロジェクト
2019年に岡山市、岡山大学、中電技術コンサルタント㈱を中心とした民間企業による産学共同プロジェクト「空き家を生まないプロジェクト」が発足しました。同プロジェクトでは、対象地域の戸建住宅世帯に対して一連の働きかけをして、空き家にさせないための態度・行動変容プログラムの開発を最終目的としています。
「空き家にさせない」とは、戸建住宅の所有者やその関係者が話し合いや情報収集により自宅のより良い将来を自発的に考え行動することによって、空き家の発生を未然に防ぐことを意味します。「態度変容」とはアプローチをきっかけに自宅の将来に対する意識が変化すること、「行動変容」とはアプローチをきっかけに実際に何らかの行動を起こすことを指します。
その結果、アンケートの被験者92名の10%に行動変容、44%に態度変容を促すことができています。行動変容の内容には、エンディングノートや遺言書の作成、登記の確認、相続などの引き継ぎに関する情報収集があります。今後の課題としては、態度・行動変容後の専門的なサポート体制の構築が指摘されています。
8.まとめ
空き家の事前対応と事後対応を比較すると、事前対応が経済的にも精神的にも有益であることが分かります。そして、事例は少ないものの空き家の発生予防に向けた具体的な動きも出始めています。
所有者の高齢化や、建物の老朽化が進めば所有者の腰が重くなることは否めません。それには、岡山・空き家を生まないプロジェクトのように、人間心理を上手に捉える取組みは有効です。
何事も後始末にはお金も手間も掛かります。この年末年始、お家のエンディングノートを作り、ご家族でお家の将来について話し合っては如何でしょうか。