自宅に住み続ける選択とバリアフリー
空き家のなかでも、放置空き家と呼ばれる管理不全な空き家が特に増加しています。このことは、私たちにどのような損失を招きかねないのでしょうか。外部不経済、経済的損失、行政からの指導の三つの側面から整理してみます。今回は、外部不経済なるものを取り上げます。
外部不経済とは、経済活動に伴う損失が取引当事者以外に及ぶことを指す経済学用語です。つまり、今回取り上げる放置空き家の外部不経済とは、空き家が放置されることで空き家の所有者以外に費用や不利益が及ぶことを言います。
放置空き家は、建物の劣化が確実に進行します。住人がいれば、扉や窓の開閉、換気扇などで換気や空気の流れができます。水道の開閉や排水によって水が入れ替わります。そして住人が居れば、雨漏りなどの建物の損傷を早期に発見することもできます。
一方で空き家は、換気不足、給排水管やガス管の劣化、雨漏り、害虫や害獣の発生で建物が傷みやすくなってきます。
その結果、「雨樋や屋根瓦の破損やずれ」「雨漏りによる天井や床の汚損や腐朽」「ネズミや野良猫などの動物が棲みつく」「ドアや扉の損耗」「外壁の汚れや破損」、屋外では、「樹木や雑草の繁茂、それの隣地や道路へのはみ出し」などの現象が目立ち始めます。
この状態が続けば、治安の悪化や放置空き家による災害などが心配になります。防災面では、火災の発生、家屋の倒壊、外壁材などの飛散や落下が懸念されます。近年は甚大な自然災害が頻発しており、その危険性は一層高まっています。
防犯面でも、犯罪の発生や誘発、不審者の不法滞在などが発生しやすい環境になります。野良犬や野良猫、ネズミなどの小動物が棲みつくと危険かつ不衛生な状態になります。ごみの不法投棄、雑草の繁茂、落ち葉の飛散や樹枝の越境などで環境が劣化します。そうなれば自ずと地域の景観も美しさが失われていきます。
生活環境の悪化は、そのこと自身が空き家の増加を誘発します。転入者の減少と転出者の増加による人口の減少を惹き起こし地域活動なども停滞に繋がります。
そして、病院やスーパーといった生活利便施設の継続が難しくなり、自治体の税収の減少しインフラの維持管理にも支障をきたすこととなります。ついには、人口流出に拍車がかかるという負のスパイラルに陥ってしまいかねません。
放置空き家による外部不経済として、次のような事例がある。
(公益財団法人日本住宅総合センター「空き家発生による外部不経済の実態と損害額の試算に係る調査」より引用)
(事例1)
約24年間管理不全状態だった空き家が不審火により夜間に出荷し、当該空き家を含めて3棟が全焼し、他に1棟がほぼ全焼。更に、道路を隔てた4棟の火元側の壁一面が焼け焦げるなどの被害が発生した。
(事例2)
約30数年間管理不全状態だった空き家が豪雪により倒壊し、外壁等の倒壊材が前面道路を閉塞。自治体は危険排除のために空き家を解体、瓦礫を養生。解体等の工事期間を含めて3日間道路を通行止め。
(事例3)
約30数年間管理不全状態だった空き家の屋根が爆弾低気圧により飛散、建物が倒壊し、前面道路を閉塞。自治体は危険排除のために屋根を撤去し、解体。撤去等の工事期間を含めて3日間道路を通行止め。
(事例4)
約30数年間管理不全状態だった空き家(借地)の屋根や外壁の一部が崩落。強風時や大雨時に腐朽した屋根材や外壁材の一部が落下。隣家の外壁の一部を損壊。借地権者の借地権放棄により土地所有者が建物等を解体・撤去。
(事例5)
宅地開発当時から約30年間空地状態だったため、高さ1.5~2mの雑草繁茂し、隣地の敷地内や道路内に樹木が越境
このように放置空き家が招く損失は、「私」の領域だけではなく、「公」の領域にも及んでいきます。