書籍紹介シリーズ②「空き家問題―1000万戸の衝撃」
高齢者住宅はサービスや利用料金など複雑な内容が多いため、その理解が容易でないことを本コラムでも何度か取り上げてきました。今回は、「高齢者住宅を情報収集する者は、なぜ高齢者住宅に関する製品判断力が低いのか」について、私がこれまでに行った調査結果をもとに考えてみます。製品判断力とは、どこまで要約された(かみ砕いた)情報であれば、情報収集者は自身のニーズと関連づけて理解できるかという能力です。つまり、なぜ相当かみ砕いて情報提供する必要があるか、と言い換えることができます。情報収集者や高齢者住宅の特徴に着眼したところ、次のような要因が考えられました。
一つ目は、高齢者のニーズの多様性と不確実性です。高齢期は他の世代に比べ健康状態の個人差が大きく、内在する不安も虚弱期や要介護期と時間の経過によって変化します。親の介護度が重度なためコミュニティへの関心は低く、介護サービスのオペレーションにニーズが集中するケースがあれば、自立した高齢者では虚弱期や要介護期に移行した将来のニーズに加え、立地や生活の利便性、コミュニティなど今の満足も重視してきます。そのため情報の提供サイドは、実に様々な情報を提供することになります。
二つ目は、一般住宅に比べ高齢者住宅の選択では考慮すべき属性が多い点です。そのため確認内容が絞りにくく陥りがちです。例えば、多くの場合に契約は入居契約(利用権方式)あるいは賃貸借契約(賃借権方式)と、安否確認・緊急対応・生活相談・食事提供などのサービス利用契約の二本立てになります。介護や医療サービスなどは、施設内サービスと外部サービスの組み合わせとなりますが、内容や費用は高齢者住宅により異なる上に、同一サービスであっても同一水準が保証されている訳ではありません。更に高齢者の心身状態の変化に伴いサービス内容が変動するため、選択の手掛かりを標準化することは難しくなります。
三つ目は、高齢者住宅への住み替えの経験値が低いため選択基準を十分に知らない、ということがあります。どのような情報をどこで収集して、どう判断したら良いかが分からない状況に陥ってしまします。もし高齢者住宅への住み替えの経験があれば、逆に製品判断力が高まる傾向があります。
四つ目は、高齢による能力の衰えがあることは否めません。高齢者の能力は、それまでの経験や蓄積が理解や判断に有利に働くこともありますが、個人差が非常に大きいことが特徴です。そのため自身のニーズと製品特性を関連づけて処理することが難しくなります。そして入居者の家族も高齢化している昨今では、子世代を含めた特徴と言えそうです。
次は、製品判断力が低いことで情報収集がどのように阻害されているか、またその改善策につても考えてみます。