住まいの終活は老後の資金問題を救うか
住まいの終活は、いつから始めたらよいのでしょうか。早い方が良いのはわかるけど、まだまだ先の話と思い、重い腰の上がらない人が多いのが現状です。
よく言われる終活でさえ、「まだまだ先の話で実感がわかない」と考えている高齢者は少なくないと思います。その認知度の低さから推察すると、住まいの終活はそれ以上に実感が乏しいと言えるかもしれません。では空き家と高齢者の特性の二つの視点から、住まいの終活はどのタイミングで始めるのが望ましいか、について考えてみます。
1.空き家の発生段階からみたタイミング
明治大学の野澤千絵氏が考える空き家問題のフェーズという考え方をここでは引用します。それによると空き家はその進行度合いによりフェーズ0からフェーズ5まであり、フェーズ1(空き家発生初期)からフェーズ2(利活用可能期)までの間に、何かしらのアクションを起こすことを提唱されています。
<フェーズ0>・・・空き家予備軍;相続・住み替え・施設入居等
<フェーズ1>・・・空き家発生初期
<フェーズ2>・・・利活用可能期;住宅の売却・賃貸、建物解体(土地売却、土地保有)
<フェーズ3>・・・特定空き家等未満
<フェーズ4>・・・特定空き家等;市町村から所有者等に適正管理等の連絡スタート
<フェーズ5>・・・対応困難化;一定数は地域に残り続け将来世代に先送り
出所:「JIR NEWS 2020OCTOBER P18参考に筆者作成」
同氏によると、フェーズ2の「利用可能期」までに少なくとも売却や賃貸化などのアクションを起こすことを促しています。確かにフェーズ3まで進行すれば空き家のまま放置された結果であり、そこから積極的に動き始めることは不可能ではないもののハードルは高いと言わざるをえません。一方でフェーズ2までにアクションを起こそうとすれば、それまでに十分な準備が必要となります。これこそが「住まいの終活」です。住まいの終活には時間を要します。それを考慮すれば、相続や住み替え等を考え始めるフェーズ0の空き家予備軍の時期からスタートすることが望ましいと言えます。
2.高齢者の特性からみたタイミング
検討にあたり必要なもう一つの視点が認知症リスクです。厚労省の推計によると2025年には65歳以上の高齢者の約5人に1人、2060年には約4人に1人から3人に1人が認知症になると推計されている。認知症になれば意思能力との関係で法律行為が制限され、不動産などの売却等の相続対策や遺産分割協議などができなくなる可能性があります。そのため資産凍結リスクという観点からも住まいの終活を始めるタイミングを考えなければなりません。つまり認知症になってからでは本人の意思を反映できないばかりか、終活そのものが滞ってしまうことがあります。
以上を勘案すれば、住まいの終活の開始は早ければ早いことが理想です。しかし一方で、「まだ先の話、面倒くさい、重い腰を上げられない。」という声が根強いのも現実です。そうであればまずは本当に必要なことだけをしておいたらどうでしょうか。自宅という不動産の棚卸しと情報整理に着手し、自らの資産価値の見える化をしておくことです。今から完璧に準備しておかなくても状況の変化に応じて随時更新する方法もあります。肝心なことは必要性を理解して始めの一歩に着手することだと思います。