高齢者住宅を情報収集する者は、なぜ製品判断力が低いのか?
今から2年前、“老後2000万円問題”が大きな話題となりました。これは当時、金融庁が2019年6月3日に公表した金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理(以下、金融庁報告書)」の内容が大きく取り上げられたことに端を発しています。
(出所;金融庁報告書)
この報告書で示された数字は、総務省の「家計調査(2017年)」における高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)の平均に基づき、次の前提条件で算出されたものです。
・夫65歳、妻60歳の時点で夫婦ともに無職である。
・30年後(夫95歳、妻90歳)まで夫婦ともに健在である。
・その間の家計収支がずっと毎月5.5万円の赤字である。
その結果、老後の30年間で
・5.5万円/月×12か月×30年=1980万円・・・約2000万円不足になるという訳です。
支出の内訳を見みると、住居費は月額13,000円、保険医療費は月額15,000円で、生涯持家で健康に過ごすモデルになっています。いわゆる自宅でピンピンコロリを前提にしています。
このような夫95歳、妻90歳まで健在というモデル設定に実感が湧くでしょうか。1990年版厚生働白書によると、2016年時点の平均寿命が男性80.98歳、女性87.14歳に対して健康寿命は男性72.14歳、女性74.79歳です。これは高齢期にお世話と介護が必要となる期間が、平均で男性が約9年、女性で約12年間ということを意味しています。
最期まで在宅で健在という前提がどれだけの方に該当するでしょうか。現状は高齢者の多くが在宅で介護サービスを受けています。生命保険文化センターの調査によると、在宅介護費用として住宅改修や介護ベッドの購入などの一時的な費用69万円に加え、月額平均78,000円の負担が生じています(「生命保険に関する全国実態調査」平成30年度)。年間では実に約90万円に上ります。更に同居家族の介護離職による経済的損失の発生も十分に考えられます。そして施設入所となれば、施設の種類や本人の心身の状態により異なりますが、入居一時金や月額利用料が新たな出費として大きく加わります。
(出所;厚生労働省白書)
高齢期の住まいという視点を加えて人生100年時代の資金問題を考えた場合、それへの備えは十分でしょうか。自宅で住み続けるとして、それまで健全であるとは限りません。要介護状態になれば、リフォームや介護サービスの利用によって新たに費用が発生します。高齢者施設に住み替えともなれば多額の資金が必要になってきます。このような高齢期の資金需要に備えるには、家計資産の多くを占める自宅=不動産の活用がポイントです。つまり、老後資金問題と住まいの終活は密接に関連しています。