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人は他人の話を聞いていない

原島敏郎

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 いつも部下が端的に要点を絞って結論から報告してくれるとわかりやすいですしイライラもしません。しかし忙しい時に要を得ない話を聞かされると 「聞いているつもり」 が始まります。あるいは話を途中で遮って自分の考えを話し始めてしまいます。なぜこういうことが起こるのでしょうか?
 理由は大きくは二つ。一つは、人は自分の興味・関心のあることだけ聞こえているということ。もう一つは、聞く側の思い込みや価値観が頭に浮かび相手が話をしているときに違うことを考えてしまうからです。
 一つ目の 「人は自分の興味・関心のあることだけ聞こえている」 というのは心理学者の コリン・チェリー が提唱した 「カクテルパーティ効果」 で明らかにされています。これは、カクテルパーティのような何人もの声が同時に聞こえてくる騒がしいなかでも、自分が興味や関心のある人の会話、自分の名前などは、自然と聞き取ることができるが、それ以外の情報は聞こえているが認知されていないというものです。だから部下が自分にとって今興味や関心のない話をもってきても聞こえているが認知していないということが起こる可能性があるわけです。
 二つ目の 「聞く側の “思い込み” や “価値観” で相手の話を判断して、相手が話をしている間に違うことを考えている」 についてです。
 「彼女の言いたいことはこういうことに違いない」 とか 「彼は考え方がネガティブだ」 という “思い込み” があると話の最中に 「言いたいことはわかっている。彼女にはこういうアドバイスをしてあげよう」 とか 「ネガティブな彼には、どういうポジティブな考えを教えてあげようか」 と考え始めます。
 また 「サポート的な仕事は女性社員がするものだ」 とか 「営業というのは断られてからが勝負だ。もうひと押しで成果がでる」 など “それが普通だ” 、 “それが正解だ” という自分なりの “価値観” をもっていて、その価値観が強ければ強いほど、それに対して違う意見を言われると話の途中でも 「それは違う」 という考えが浮かんできて反論し始めます。特に相手が部下の場合、状況を十分に最後まで聞かず途中で話をさえぎって、 「なぜその仕事を君がするのだ。もっとやるべきことがあるだろう」 とか 「なぜ、そこでもうひと押ししなかったのか?」 などと言いたくなってしまいます。なかには他の人にはすぐに反論などしないのに、部下にはついしてしまうという方もおられます。 「部下だからそういう対応しても構わない」 と部下に甘えているのかもしれません。
 このように興味・関心がない、思い込みや価値観が邪魔をする。これらの原因で人は人の話を聞いていないことが起こってしまいます。人は自分の考えを話すときには普段慣れた脳の回路をつかうので楽ですが、自分と考えや価値観が違う人の話を聞いて理解しようとなるといつもと違う回路を使うので楽ではありません。話をしているときよりも聞くときの方が神経を使っています。ですから気を許すと相手の話は “聞こえている” けど “聞いていない” 、 “頭に入っていない” 状況になってしまいます。人の話は意識しないとしっかり聞けないものなのです。

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原島敏郎
専門家

原島敏郎

有限会社ソリスナビタス

大手企業での長年のマネジャー経験を生かし、マネジャーが陥りやすい考え方や立場上の苦しさなどを十分に理解。マネジャーの上司や部下との関係を調整しつつ、実績を上げられる組織作りをサポートします

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