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部下のキャリアをマネジメントする理由

原島敏郎

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 なぜマネジャーが部下のキャリアをマネジメントしていく必要があるのでしょうか?
 私たちが会社に入った時代は、学校を卒業すると新卒一括採用制度の下で企業に入社して、終身雇用制度で定年まで働くことがごく普通でした。“就職”というより“就社”。入社した会社で誠実勤務することを約束し、会社の意向で配属部署が決まりそこで働く。給与は、結婚、出産、子どもの教育など、社員のライフサイクルに合わせて年々徐々に上がるように設計されていました。また「男性は仕事、女性は家庭」という性別役割意識が根付いていましたから、男性は結婚すれば配偶者手当、親元から離れると住宅手当、子どもができると家族手当など、業績とは関係なしに全社員に平等に準備されていました。社員はそこまで面倒を見てもらえるので、会社に忠誠心を示し、途中よほどのことがない限り定年まで勤務するというのが慣習でした。
 しかし高度経済成長期も終わり、右肩上がりで経済が伸びなくなったので、同期入社全員が一緒に昇格するということもできなくなり、社員全員が定年まで勤務できるとは限らない状況になりました。
 私たちが育った時代は、どの企業も大体「右へならえ」で同じような制度で運営されていました。そのころの社員のキャリアに関する考え方は、基本的に以下のようなものでした。
 
1.人材育成は、企業が主導するものであり、個人は受身である。
 ・社員のキャリアは、会社(組織)が本人の「適性」に合わせて誘導していく。いわゆる「適材適所」という名の下、社員のキャリアは、会社・組織が決める。「終身雇用は保証するから、組織のためにしっかり働いてよ」という考え方がありました。会社に入れば、まずひと安心だから個人が主体的に自分のキャリアについては考えてこなかった。

2.成長とは、ピラミッド型組織において、正規社員だけを対象とした「序列上昇」という画一的なものである。
 ・いわゆる「出世する」ことが唯一の成長基準である。キャリア形成するといえば、「出世すること」であった。

3.人材育成は、縦序列における「指導伝承型OJT」を通しておこなわれる。
 ・先輩が、その先輩に教わってきたとおりに後輩に教えることで、会社独自の価値観や技術を伝承してきた。会社独自の大切にする考え方とか、技術的ノウハウなどを「秘伝」のように伝承してきた。徒弟制度の延長があった。

 バブル崩壊以降、大手の会社といえども、統合・合併、倒産などで、いつなんどき「安泰」でなくなる時が来るかわからない環境となってしまいました。若者の意識が変わり、中高年者の不安も膨らんでいます。

 「若者の意識の変化」は、まず自分の人生が会社にコントロールされることへの不安があります。いつ会社が傾くかわからないし、自分もいつ解雇されるかわからない。会社のいう通りの異動をそのまま受けていて大丈夫なのか?学校教育でキャリアデザイン、キャリア相談などがあり、そこでは「これからは、自分のキャリアは自分でつくっていかなければいけない」と教わります。学校での教育と会社に入ってからの状況が違い、矛盾を感じてモヤモヤした状態にいます。
 「中高年の悩み」は、急速な環境の変化に対して柔軟に対応できない。今まで「会社の指示に従いなさい」と教わり忠実にその通りにやってきた。環境が変わったから突然、「自分の人生自分で考えろ」と言われる。どう考えればいいのか?自分の培ってきた技術は今の時代には通用しないように感じる。これから何をすればいいのか?彼らもモンモンとした状態にいます。

 そんな環境下で、部下が会社で継続して一生懸命働くモチベーションを維持していくのは、「自分なりのこの会社で働く意味」を持たせてあげることです。もちろん自分の仕事人生は自分で考えるのですが、会社にどのような部署があり、その部下の可能性としてはどこに行けそうで、そのためにはどのような能力と経験をもてばいいのか、会社の制度はどんなものがあるのかなどの情報を提供し、部下の可能性を広げてあげる。そして「私は、将来この会社のこういう部署で、こんな仕事をしていたい。そのために今の仕事を精一杯やりながら、こういう勉強をしてその部署からオファーが来るぐらい実力をつけておこう」などができると“今”の仕事にも力が入るというものです。

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原島敏郎
専門家

原島敏郎

有限会社ソリスナビタス

大手企業での長年のマネジャー経験を生かし、マネジャーが陥りやすい考え方や立場上の苦しさなどを十分に理解。マネジャーの上司や部下との関係を調整しつつ、実績を上げられる組織作りをサポートします

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