日本のコーチングの現状<No.10> セッションでコーチは何をみているのか(1)
クライアント企業の部長さんから新任のマネジャーたちのコーチを依頼されました。そのなかの一人のマネジャーから『部下との接し方マニュアルがほしい』と言われたそうです。「コーチ。どう思われますか?」と聞かれました。
その会社では、マネジャー向けに『人事制度運用マニュアル』『目標設定マニュアル』『会計マニュアル』など、業務に関するマニュアルは整備されていますが、部下との接し方に関しては『コンプライアンス・マニュアル』のなかでハラスメントについて触れられているぐらいです。
「部下とうまくやっていけて、チームをまとめることも出来るからマネジャーになったのだから、今さら何を言っている、って感じですけどね」と少し困惑されている様子でした。「私たちの時代では、先輩や上司に相談しながら、自分でもいろいろ考えて、試行錯誤しながら関わってきましたけどね。今はそれだけ人間関係が希薄なんでしょうかね。じっくり関わっていく時間や気持ちの余裕もなくなってきているのでしょうかね」。
確かに、学生時代に「こうすれば志望校に受かる」などのマニュアル的な教育を受けてきたうえに、学生時代に経験したアルバイトでもマニュアル通りに行動することを求められています。また会社に入ってからも、社員の行動基準を定めたマニュアルがドンドンできていく傾向にあります。マニュアル通りに行動していないと、低い評価となるが、マニュアルに書いていないことだと叱責は免れる、という考え方が横行している。自分で考えて創意工夫しながら行動するという場面が少なくなっています。
マネジャーになると、今まで同僚・後輩という関係だった人に対して、上司として接する必要が出てきます。周りの自分に対する見方も変わってきます。『新任マネジャー研修』で対応を学ぶといっても2~3日間。そこで十分に「“自分の”部下に対する対応方法」など身につくわけはありません。かといって、様々なケースがあるのでマニュアルを作って網羅できるものでもありません。その都度、その人に合わせた柔軟な対応、臨機応変な対応が必要です。自分で考える必要があります。
そもそも何のための組織で、いつまでに何をアウトプットするのか、などがチームの中で統一されて、メンバーが自分で「今、何のために、いつまでに、何を、どうやって実行するのか?」を考えて、自分の責任で行動を決めて実行する。そういう組織と部下を育成していくという根本的なマネジャーの役割を腑に落とし込めば、あとはすべて「現場での応用問題」です。
それで新任のマネジャーが軌道に乗るまでコーチが関わることで、自信をもって部下対応ができる力をつけていくことができるようになります。この会社もそうですが、そういう背景で新任マネジャーのコーチを依頼されることが多くなりました。