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【事例】能力を認め期待し、部下を再生させる

原島敏郎

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 クライアントのマネジャーのAさんの事例です。Aさんは、まったく実務経験のない部署へ異動することになって、「新しい部署でマネジャーとして成果を出す」というテーマでコーチを依頼してきました。
 
 新しい部署は部下が約30名。以前からの顔見知りはたった2名のみ。明らかに部下のチームリーダーの方が実務も出来るし判断も的確である。確かにマネジャーはその部署での実務能力は必ずしも必要ではなく、担当者がいかに仕事しやすくするかの“環境づくり”をしていくことが仕事であることはよくわかっている。しかし実務に関する決済を求められてもわからないことに直面して戸惑う。判断に必要な情報収集に時間をかけていると部署全体の業務の遅れにつながる。
 まず全員と面談して、現在の業務内容と部署の課題と思っていることをきいた。全員と約1時間ずつ面談したが、チームリーダーとベテラン社員には仕事の判断基準と優先する基準がなにか、どんな時に判断に迷うかなども聞いたので、2時間近くかかった人もいた。結局1週間を使った。
 面談したなかに、顔見知りのFさんがいた。Fさんは、お子さんが2人いらして今まで産休と短縮時間勤務を使って仕事をしていた。Aさんは、彼女が結婚する前に同僚として一緒の部署で仕事をした経験がある。面談のなかで、彼女は会社を辞めるつもりでいることを打ち明けられた。その意向を口にするのは初めてらしい。産休明けごとに違う部署に異動になり、その都度新しい仕事を覚えて頑張ってきた。新しい部署で知っている人もいなく、短縮時間でみんなより早く帰るので、覚えるに時間がかかるし、仕事によれば途中で同僚にお願いして帰らなくてはいけなくなる。上司や同僚に迷惑をかけているという目に見えないプレッシャーを感じてつらい様子であった。
 自分の席に戻り彼女の人事査定を見るとここ数年間にわたり評価がすこぶる低い。自分の知っている彼女はアイデアも豊かで、事務処理能力に長けていて、部署内外問わず人間関係構築力の高く厄介な調整を難なくこなすイメージであった。しかしここ数年は産休明けということで単純な作業的業務しか任されていなかった。
 たまたまAさんの上司から特命案件を依頼された。自分の知る他部署との調整も必要になる。早速、彼女のチームリーダーに話をして彼女を特命案件のサポート役になってもらった。特命事項の目的や実施していく方向性などを伝えると、彼女は収集するべき情報の種類の案、作成資料案などを出してくれた。話し合いで修正しながら決定した方針で資料作りをしてくれる。他部署との調整もしてくれる。それを見ていたチームリーダーや同僚もびっくりしている。Aさんも彼女の動きをよく観察して、タイミングを外さず積極的に関わっていき承認するところは承認し、フィードバックするところはしっかりフィードバックした。彼女は久々に活き活きして仕事に取り組むようになった。
 
 Aさんは「過去の彼女の仕事に対する取組み姿勢を知っていたから、彼女を生き返らせることが出来ましたが、もし全く知らなかったら、彼女は退職していたでしょう。惜しい人材を逃してしまうところだったと考えるとちょっと怖い気がします」と言っていました。Aさんがそこから学んだことは、「日ごろからの観察、そして面談で仕事に対する要望、キャリアビジョンなどをよく聞いて、一人ひとりの能力や強みを知ることがやはり基本であること」ということでした。私も改めて学ばせていただきました。

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原島敏郎
専門家

原島敏郎

有限会社ソリスナビタス

大手企業での長年のマネジャー経験を生かし、マネジャーが陥りやすい考え方や立場上の苦しさなどを十分に理解。マネジャーの上司や部下との関係を調整しつつ、実績を上げられる組織作りをサポートします

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