日本のコーチングの現状<No.10> セッションでコーチは何をみているのか(1)
近年、部下のキャリアをマネジメントする必要性が言われています。
昔はなかった話です。私たちが企業で育った時は、「立身出世をめざす」ではないですが、みんながより上位職に出世する、昇給することをめざして一生懸命働いていました。時代とともに、必ずしも出世するばかりが道ではないという考え方も出てきて、「管理職は嫌です。私はずっと専門的な仕事をしていたい」という考え方の人も出てきました。しかし多くは管理職をめざしていましたし、専門職コースができても、会社から「君には管理職になってもらいたい」といわれれば管理職にならざるを得ないということもあり、基本的に“より上位の管理職”になることが、企業におけるステイタスのようなものでした。
しかし今、特に若い人は、出世や昇給よりも大切している “生き方” が個々に違います。地元で家庭を中心とした生活を望む人、自分の内面の成長実感を味わいたい人、趣味の世界で卓越したスキルを発揮することで人生の充実感を得たいと考えている人、何も考えたくない人…本当にさまざまです。
ただ多くの若い人たちに共通していえることは、今の仕事の “意味” を明確にしたい傾向があることです。「なぜこの仕事をする必要があるのか?そしてなぜその仕事を自分がすることになるのか?」。ここが明確になっていないと先に進めない人が多い傾向にあります。また、自分を見失って、将来の自分ってどうなんだろうと将来に不安を感じている人も少なからずいます。昔は多少理不尽だとは思っても、その仕事をすることが会社のためならば、自分の評価につながるのならば、と思い直して必死に頑張るということがありました。
その人にとっての仕事の意味はその人の問題ですから、「自分の中で整理して」と思ってしまうのですが、それが仕事のパフォーマンスに影響して、チームの他のメンバーにもよくない影響を与えてしまうようでは上司としてほっておけません。
今の仕事に意味を持たせるためにも、将来の不安を少しでも取り除いてもらうためにも、将来像を仮設定することが重要となってきます。いわゆるビジョン設定です。3年後なり5年後、自分は会社のなかでどんな仕事をしているか、どんな取り組みをしているかを仮に設定する。それに向けてどんな成長をしていけばいいのかを考える。そして今の仕事の部下なりの意味を持たせてあげる。そのためにも上司が会社の人事評価システムや自己申告制、社内公募制、社内フリーエージェント制などの制度があれば、それらをしっかり理解して説明してあげることも必要となってきます。そういう制度をどう活用してビジョンを設定していくのかを一緒になって考えてあげる。
そうやって、上司は、部下一人ひとりが主体的に将来のビジョンを描けるような関わりをしてあげることも、部下の “今” のパフォーマンスを高める大切な “一手” になるのです。自分の若い時を振り返ると時代は大きく変わりました。