日本のコーチングの現状<No.10> セッションでコーチは何をみているのか(1)
ある企業の技術職の方からマネジャーに昇格されたタイミングでコーチングを依頼されました。
彼の部署は、生産技術部門。彼は今まで、チームをまとめる経験してこなかったため、マネジャー昇格にはかなりの不安をいだいていました。まず部署の現状を説明してもらいました。彼はゆっくりと現状と課題をポツポツと話はじめ、自分の喋っていることもノートに付けながら自分の頭の中を整理していました。
生産ラインごとにニーズも違うので、個別対応をしなければいけない。メンバー全員が常に複数案件を担当しており、案件ごと違う同僚とコンビを組んで対応している。ただ同じような機械を重複して設計したり、同じような機械を異なる機械メーカーに発注したりするので従来から無駄を感じていた。部署内で情報は共有されておらず、現在、だれが、どの案件を担当していて、どの程度の負荷がかかっているのかわからない。全体像をつかめていない。工場からの指名をそのまま受けている傾向もあったので、誰がみても優秀だと思われる人に仕事が集まり、フットワークが多少鈍い人の仕事量は少ないようにも感じていた。また人によっても非常に忙しい時期と余裕のある時期の差もあるが、技術力の差もあるので余裕のある時に誰の手伝いをしていいかもわからず、メンバー間の技術力はますます差がつく状況にあった。
彼はコーチングを通して、自分で現状を整理し、目的を明確にし、方針案を様々な視点から広げ、その中から最適だと思う方針案を決め、メンバーを巻き込んで実行した。実際に行動したことは、「情報の共有化によるメンバーの業務負担の均一化」を目的に、全員とヒアリングすることで業務一覧表を作り、一人ひとりの業務に対する取り組み方や考え方、業務負担量を把握して業務負担の均一化をはかった。月に一度、持ち回りで業務内容の報告会を実施し、部下同士の理解を深める場づくりをした。また、製造会社の担当者を呼んで勉強会を実施し知識の均一化を図った。部下に新たな仕事を依頼するとき、その仕事の背景と目的、その仕事をすることでどんな影響と効果があるのか、そしてなぜその人に任すのかを説明し、担当者が腑に落とし込んで取り組んでもらうようにした。そうすることでメンバーの顔色が変わり、やる気を感じるようになった。
今年の7月から新しい年度に入るのをきっかけに、部署のビジョンを策定して浸透させていきたいと考えている。そのために一人ひとりと改めて時間をとって話し合いたいと考えている。
つねに会社をよくしていこうとしていて、部下にも単に仕事をこなすのではなく、目的を明確にもって創意工夫して取り組んでほしいと願っているところが彼のリーダーとしての強みとなっています。チーム作りの方法や部下へのかかわり方について貪欲に学ぼう、知ろうという気持ちをもってコーチングに取り組んで、自主的に行動していただいた成果がでています。