日本のコーチングの現状<No.10> セッションでコーチは何をみているのか(1)
「部下を叱ると“パワハラ”。叱らないと“なめられる”。どうしたらいいの?」という相談がよくあります。
ビジネスコーチングの世界では、“叱る”というスキルはありませんが、相手の行動修正を目的とした“フィードバック”のスキルがあります。「褒めて育てる」のは大切です。しかしビジネスの世界では、時と場合でこの“フィードバック”のスキルを応用して、“叱る”ことも必要だと私は思います。その前に知っておきたいことがあります。
まず、「怒る」と「叱る」の違いがあります。辞書で意味をみると、
「怒る」は、「不快、不満などの感情をもって相手をとがめること。責めること」。
「叱る」は、「相手の過失や不正を改めさせようとして厳しく注意すること」で、
「怒る」には、いわゆる「怒りの感情」がともなっていますが、「叱る」にはその感情が伴っていません。ですから、「叱ってもいいが、怒ってはいけない」といわれています。
ただ、その「叱る」には、条件があります。
日頃から部下との間で信頼関係をしっかり作っておく。
これは、これまで書いてきたように、まず部下のことをよく観察し会話をしてよく知る。相手の話をよく聞いて、共感するなど感情交流をよくしておく。部下をよく理解しておいてあげる。などによって信頼関係をつくっておくことが大切です。
人格を否定しない。相手の人格と自尊心を尊重する
「またお前か!」などとその人に焦点をあてない。その部下がおこなった“行動”に焦点を当てる。自尊心を傷つけないように、見せしめのように人前で叱らない。他の部下と比較しない。「こんなことするのは、お前だけだ!」「A君はできているぞ」などは避けましょう。
相手の成長を願う気持ちから叱る。
上の2つのことが出来た状態で、その部下のことを思い、その部下が成長するためにという気持ちをもっていると、部下は、たとえ叱られたとしても「自分のことを思って、叱ってくれている」となります。
客観的事実に基づいて叱る。
叱るとき、よくない行動をしたその“行動”に焦点を当てる。「今、君がしたこの行動について…」。自分が見ていた客観的事実に基づく。誰かの告げ口などは要注意です。事実確認をする必要があります。
叱る目的を明確に伝える。
なぜ叱るのかを相手は腑に落ちるようにしてあげる。「その行動をしたことで、こんなよくない影響がある」(○○部署や、○○さんに迷惑がかかる、など)
日ごろから、何について「叱る」のかを明確にしておく。
「自分は、こういうことにはうるさく言う」と日頃から宣言しておくと、部下はその行動はやらない。もしやってしまって、叱られたとしても「叱られたこと」を受け取りやすい。例えば、規則、コンプライアンス、報告などについて「守る基準」を設けておく。それを破ったら「叱る」ことを言っておく。「これぐらい言わなくってもわかるはず」というのは、部下に対しての“甘え”でしょう。
間違っても「実績が上がらないと叱る」はナシです。実績を上げるために「○○という行動をする」といっておきながら出来なかったら、いきなり叱るのではなく、状況をよく聞いてからにしましょう。
あと現場などで「危険」が伴う場合ですね。これは上記とは関係なく、即、叱る必要があります。声も事前に伝えておく方がリスク管理上大切です。
これらの条件をそろえておくことが大切です。
こちらが客観的事実に基づいて叱ったとしても、その上司を信頼してなかったり、この上司は自分を嫌っていると感じていたりすると受け取りにくいです。また、叱られた内容が腑に落ちなかったら、「怒られた」という感情だけが残ってしまう場合が多いのです。あとで、「上司に怒られた。なんでか、わからんけど、怒っとった」となれば、そのことだけが独り歩きをして、「あの上司は、理由なく感情で怒る」となってしまいます。