日本のコーチングの現状<No.10> セッションでコーチは何をみているのか(1)
部下のデータベースのチェック表をつけてみての感想を聞くと、これまた面白い反応がでてきます。「知っているつもりになっていたが、意外にちゃんとわかっていなかった」と素直に認めて、「もっと部下と会話をしていきます」という方もおられるが、「昔のように飲み会がなくなったので、プライベートを知る会話ができなくなった」、「今は個人情報やハラスメントについてうるさいから、プライベートを話題にはできない」、「業務以外のことをきく場面もないし、そんなに暇ではない」、「仕事をしに会社にきているのだから、プライベートな情報はいらない」という意見も出てきます。
しかしその方々に「では、もし逆の立場で、あなたの上司があなたについてほとんど書けない状態で、業務上の仕事だけの会話しかなければいかがですか?」と聞くと「そんな上司には、チョット失望感を抱く」、「自分のことを“仕事をこなすヒト”としてしか見てもらっていない感じがする」などの返答がきます。
ということは、「昔と環境が違うので、自分は部下のことをあまり知らないが、自分の上司には自分のことはよく知っておいていてほしい」ということになってしまいます。
確かに私たちが育った環境との違いはあります。昔は何かと言えば、飲み会があるし、帰りに「一寸、一杯」というのがありました。今は、お酒を飲まない人が増えていますし、それこそプライベートを大切して早く帰宅したい人も増えています。ゆっくり会話する時間が作れなくなったかもしれませんが、チョットした心掛けだと思います。問題は部下のことを知ろうと思うかどうかでしょう。『史記』から引用して以前にも書きましたが「部下は自分をよく知ってくれている上司のために働く」です。
まずは話をする“回数”を増やすこと。休憩時間の5分、10分。お昼休憩などの活用。短くても会話する“回数”が増えると会話の合計“量”が増え、段々と会話の“質”が変わってきます。そうすることで互いに分かり合えることも増え信頼関係も構築していきやすくなります。その時のポイントは、雑談の中で知りえた情報はすぐに“メモ”しておくこと。つい忘れてしまうので、早いうちにデータベースに書き込んでおくことです。部下のことについては、プライベートのことも仕事上のことも“丸ごと”知ってあげてほしいです。
特に、相手が“大切にしている人、モノ、思い出”などを知ってあげてほしいです。人は自分が大切にしている人、モノ、思い出などをしっかり受け止めて、それを大切に扱ってくれる人に好意を抱きます。幼いお子さんのことを大切にしている人にとって、「今日は、お子さんの誕生日だろ。早く帰ってあげな」と声掛けされるのはやはりとてもうれしいですよね。