ゴルフ規則にない「6インチ・プレース」ルールの使い方!

谷光高

谷光高

テーマ:ゴルフのローカル・ルール

コースの状態が不良で、プレーするにはひどく悪条件となっているときや芝の生育が不十分な時期に、クラブハウスの掲示板やキャディーマスター室前に「スルー・ザ・グリーンは、6インチ・プレースが許される」というローカルルールが掲示されることがあります。

この「6インチ・プレース」とは、ペナルティーなしで、今ある位置からカップ(グリーン)に近づかないで6インチ(15.24㎝)以内の別の場所にボールを移動できるという意味のルールです。移動するときは、ドロップ(落とす)ではなくプレース(置く)します。


なぜ「6インチ」?

なぜ「6インチ」という長さになったのでしょうか?

昔、1対1のマッチプレーでは、例え自分のライン上に相手のボールがあったとしても、ピックアップ(マークをしてボールを拾い上げること)を要求できませんでした。このような「カップと自分のボールの間に、相手競技者のボールがある状態」のことを「スタイミー(stymie)」と呼んでいました

「スタイミー」な状況の場合、迂回してパットするか、相手のボールの上を飛び越して打っていくほかありませんでした。。このルールは、1952年にルールブックから削除されましたが、それまでは、シングル・マッチプレーにおいて極めて一般的なものでした。従って、マッチを有利にするために、自分のボールをわざと相手の「スタイミー」な位置にパットするという戦略も、日常的に用いられました。

ただし、この「スタイミー」規定には例外があり、お互いのボールとボール、または相手のボールとホ-ルの間の距離が「6インチ」以内の距離にある場合は、相手にピックアップを要求できました。

それではプレー中に「6インチ」をどのようにして図っていたのでしょうか?

「6インチ」とはボール約3個分の長さです。

また別の方法でも、いつでも計測できるようにしていました。日本では幕末の1865年(慶応元年)、第6回全英オープンで、初めて公式のスコアカードが採用されました。このとき計測に便利になるようにと、正規のスコアカードの横幅を「6インチ」と定められました。

現在でも、スコアカードの横幅が「6インチ」になっていたり、スコアカードに「6インチ」の長さを示す目印がついているゴルフ場があります。これは、スコアカードを簡易定規としてボール間の距離を測っていた時代の名残といえます。


「6インチ・プレース」は一時的な応急措置のローカルルール 

この「6インチ・プレース」という文言はゴルフ規則にはありません。
日本のゴルフ場のローカルルールでは、そのコースの委員会がコースの状態を勘案して、ノータッチでのプレーは無理と判断し「6インチ・プレース」の措置を決定します。

主として冬期にスルー・ザ・グリーンの芝のはげたところやくぼみにボールがあるときに、そのボールを拾い上げて、元の位置から6インチ以内のより良いライ(球のある場所の状態)に、そのボールを置くことができる、というところが始まりです。

今では大雨のあとでぬかるみがひどい時や夏場の乾燥時期に芝がなくなって裸地となったときにもローカルルールとして応急措置として制定されることも多くなりました。

しかしゴルフコースを提供する者の立場としては、「ノータッチでプレーできるコースの提供が当たり前」と考えているので、一時的にしろ「6インチ・プレース」を定めなくてはいけないようなコースのメンテナンスについては、プレーヤーに対して非常に申し訳ない気持ちで一杯になります。いつもノータッチプレーで不公平のないコースづくりを目指していきます。

技量に応じた優遇措置としての「6インチ・プレース」ルール

ゴルフ規則を遵守すると、この「6インチ・プレース」ルールはプレーヤー自身が決めるルールではありません。ローカルルールはコース保護などの特殊事情に対応するための例外措置であり、コースの状態に関わらずに常時プレーヤーを救済するためのものであってはなりません。

しかし、プライベートコンペなどのルールで「本日は6インチ・プレースOKです!」とスタート前に幹事さんから説明があるときがあります。これはプレーヤーの技量に応じて決められている優遇措置です。

初心者の人にも少しでも楽しくプレーしてもらうための特別ルールとして、6インチ・プレースの優遇措置を限定的に使うのは有効だと思います。
初心者プレーヤーには、気持ちのいいナイス・ショットを1回でも多く感じて欲しいですからね!

「6インチ・プレース」ルールによる悪習とは?

ただ・・・普段から「6インチプレース」の習慣がついてしまうと、ボールが格別悪いライにあるわけでもないのに、ボールに手を触れて置き直すことが癖になってしまう人がいるという話をよく聞きます。
少しでも良いショットを打ちたいという思いからか、何気なくごく自然に「6インチプレース」をやってしまっているのです。

この習慣に染まってしまうと、どこにボールがあっても「もっと他に良いライがある」と思えてくるのでしょう。
ボールを動かしてみても、まだ最良のライではないと満足できなくなってしまいます。

6インチは約15センチで、親指と人差し指を広げた幅にも満たないはずです。
それがいつのまにか・・・
元の位置から1クラブ、2クラブ、挙句は自分の背丈以上に離れているなんてこともあるかもしれません。
ボールを拾い上げ、良いライを求めてさまようその姿に「あるがまま」というゴルフの原則は存在しません。

たった6インチのはずが1メートルも離れたところにプレースとなると、周りの人はどう思うでしょうか?
ルールを遵守して自分だけに有利にならないようにプレーすることは、ゴルフの本質であり大切なゴルフマナーです。

「6インチ・プレース」ルールは、あくまでゴルフ場が定める一時的なローカル・ルールとして、またプライベートのコンペなどでは技量に応じた特別措置として限定ルールとして、参加者全員が共通の認識を持つことが大切です。
不公平やトラブルにつながらないように注意しなければならないルールとして慎重に考えましょう。

「ウィンタールール」と「プリファード・ライ」

ゴルフ規則では「ウィンタールール」及び「プリファード・ライ」というローカル・ルールが明記されています。これは一般的に「6インチ・プレース」と同様の解釈がされていますが、救済方法は「6インチ」に限られておらず、「1クラブ」と定められている競技もあり、定められたローカルルールによって違ってきます。公式競技ではこのルールによるトラブルもあります。
http://www.golfdigest.co.jp/digest/column/back9/2013/20130423a.asp
公正の理念からも、一番良いのは「あるがままにプレーする」ということですね。

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谷光高
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谷光高(ゴルフ場経営者)

新有馬開発株式会社(有馬カンツリー倶楽部)

一部の人が楽しむゴルフから、誰もが気軽に楽しめるゴルフへ。日本のゴルフ文化を変えるため、ゴルフ初心者へのサポートや子どもたちへのレッスン、学校の授業などを行い、初心者にゴルフを楽しむ機会を提供している

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