世界的緊張が体に及ぼす影響

頭の中の声が消えない。
昨日の失言がよぎる。来月の締め切りが気になる。まだ会ってもいない人への返信を考えている。10年前の後悔がふとした瞬間に戻ってくる。
意識は今ではなく、あちこちの時間と場所に散らばっている。
その間も、身体だけが今にいる。呼吸をしている。心臓が動いている。でも意識はここにない。
私たちの身体には、常に「真ん中」に還ろうとする力が備わっている。
ホメオスタシス——体温、血圧、血糖値、自律神経のバランスを一定に保とうとする機能だ。暑ければ汗をかく。寒ければ震える。傷つけば修復しようとする。意識しなくても、身体は常に真ん中を目指している。
しかし意識のピンは、対処しなければならない問題として存在する。その問題を思い出している限り、身体は静かに交感神経優位な状態へ切り替わっている。
呼吸が浅く早くなる。視野が狭くなり、歩いていてもつま先の前の地面しか見えなくなる。肩や首に疲れが蓄積する。
これは意志の問題ではない。身体が自動的に「戦闘準備」に入っているからだ。
そしてその状態が慢性化したとき——身体はその緊張を「普通」として学習し始める。ホメオスタシスが、緊張した状態を「真ん中」と誤認していく。
ポリヴェーガル理論では、副交感神経をさらに二つに分けて考える。その中の「腹側迷走神経複合体」が活性化されたとき、人は安心・安全を感じ、身体は本来の回復力を取り戻す。
そしてこの腹側迷走神経複合体を活性化させるために有効とされているのが——五感への働きかけだ。
意識のピンを、今に戻す。
目の前のコーヒーの香りを感じる。音に身を委ねる。風の温度を肌で受け取る。足の裏が地面に触れている感覚を確かめる。
その瞬間、散らばっていた意識が今に還ってくる。交感神経の緊張が緩み始める。ホメオスタシスが、本来の「真ん中」を取り戻し始める。
五感リセットは、意識のピンを今に戻すための、最もシンプルな入口だ。
次回は、そのレーダーが本来持っている力——動きとイメージと思考の繋がりについて考えていきます。


