低額譲受(2)②
■低額譲受って、税負担を回避しようとしていない人にまで適用する必要があるの?
前回のコラムで述べたように、相続税法7条の低額譲受は、回りまわって、相続税の負担を回避することを防止する目的をもって作られました。
そこで、Xは裁判の中で下記のように主張しました。
・相続税法7条は、相続税を免れるために行われたと認められる低額譲受にのみ適用されるものと限定解釈されなければならない。
・したがって、相続税法7条の射程範囲は、相続予定者等の親族に該当する者を対象とする低額譲受であると解すべきである。
・また、独立当事者間売買では、相続税の負担軽減の意図はありえないのであるから、万一、同法7条を適用するとすれば、贈与意思が認定される場合にのみ限定されなければならない。
■しかし、裁判所は下記のように判示し、Xの主張を退けました。
「贈与税は、贈与により無償で取得した財産の価額を対象として課される税であるが、贈与という法律行為をとらずに財産の譲渡が行われた場合に一律に贈与税の対象とならないとすると、有償で、時価より著しく低い価額の対価で財産の移転を図ることによって、贈与税の負担から免れることになり、租税負担の公平を害することになる。そこで、相続税法7条は、このような租税回避の防止を図るために贈与という法律行為ではなくとも、時価より著しく低い価格で土地の譲受があった場合には、その対価と時価との差額に相当する金額の贈与があったものとみなすことにしたものと解される。」
「相続税法7条は著しく低い対価によって財産の取得が行われ、その担税力が増加したと認める状況があればよく、『財産の譲渡を受けた者』が相続予定者等の譲渡人と親族関係にあることを要せず、財産又は対価と時価の差額分を無償で譲り受ける意思や租税回避目的も要しないものと解すべきである。」
このように、本条の適用については、租税回避の意図の存否を問わないと解すべきであると考えられています(注1)。また、贈与の意思についても、その存否を問わないと解すべきであると考えられています。
本件では納税者敗訴となりましたが、同じ低額譲受が争点で、納税者が勝訴した東京地判平成19年8月23日でも、同じように租税回避の意図の存否は問わないとされています。
「……租税負担の回避を目的とした財産の譲渡に同条が適用されるのは当然であるが、租税負担の公平の実現という同条の趣旨からすると、租税負担回避の意図・目的があったか否かを問わず、また、当事者に実質的な贈与の意思があったか否かをも問わずに、同条の適用があるというべきである。」
このように、当事者に租税負担回避の意図・目的があったかどうか、また、贈与の意思があったかどうかは、低額譲受の適用に関係ないと考えられています。
注1:金子宏『租税法』(弘文堂、第23版、2019)671頁。