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竹下勇夫

会社法・労働法・経済法に精通した企業法務のプロ

竹下勇夫(たけしたいさお) / 弁護士

弁護士法人ACLOGOS

コラム

低額譲受(2)③

2021年8月20日

テーマ:低額譲受・ケース②

コラムカテゴリ:法律関連

■低額譲受が適用されるのは、相続予定者等の親族だけでよいのでは?

 相続税法7条に規定されている低額譲受の目的は、財産の譲渡が贈与という法律行為に該当すれば、贈与税が課されることを予想して、有償で、しかも僅少の対価をもって財産の移転をはかることによって、贈与税の負担を回避することができるため、これを防止する目的等をもって定められています(注1)。
 そして贈与税は、税として贈与税がなく、相続税のみが課されている場合には、生前に財産を贈与してしまうことによって、相続税の負担を容易に回避することができてしまうため、この相続税の回避を防止することを目的として、採用されています(注2)。
 つまり、低額譲受の規定は、回りまわって、相続税の負担を回避することを防止する目的をもって作られています。

 そこで、相続税の納税義務者を確認すると、相続税法1条の3は、「相続または遺贈(死因贈与を含む)によって財産を取得した個人」と定めています。つまり、相続税の納税義務者には、相続により被相続人の財産を取得した親族だけでなく、遺贈(注3)により遺言者(被相続人)の財産を取得した第三者も含まれています。そうすると、相続税の負担を回避しようと意図するのは、親族だけでなく第三者にもおこりうることになります。

■これを本件売買契約にあてはめると?

 もし本件土地をAさんからXさんに遺贈する予定があったとしたら、遺贈ではなく生前の売買契約によって低額で譲り受けておけば、Xさんは将来遺贈により発生するはずであった相続税の負担を回避することができたはずです。このように、親族でない第三者であっても、低額譲受による相続税の負担回避を意図することは可能なのです。

 したがって、低額譲受の適用を受けるのは、相続予定者等の親族だけとは限らないことになります。本件においても、相続税法7条の「財産の譲渡を受けた者」が相続予定者等の譲渡人と親族関係にあることを要しないと判示されています。

注1:武田昌輔監修『DHCコンメンタール相続税法1-沿革・§§1~10』(第一法規、加除式)1003頁。
注2:金子宏『租税法』(弘文堂、第23版、2019)671頁。
注3:遺贈とは、遺言者(被相続人)が死後に財産を人(相続人に限らない。)に無償で贈与することをいいます。遺贈により財産を取得する受遺者の合意を必要としない単独行為です。

※ 本件はさいたま地判平成17年1月12日をモデルとしていますが、事実の一部は異なります。
※ なお、本件は納税者側の主張が認められず、課税処分等が確定しています。

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