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竹下勇夫

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竹下勇夫(たけしたいさお) / 弁護士

弁護士法人ACLOGOS

コラム

低額譲受(2)②

2021年8月18日

テーマ:低額譲受・ケース②

コラムカテゴリ:法律関連

■親族でない第三者間の売買取引にも、低額譲受が適用されるの?

 以前の低額譲受・ケース1のコラムでも触れましたが、相続税法では、法律的には贈与によって取得した財産ではないけれども、実質的には贈与により取得したものと認められる一定の財産等について、課税の公平の見地から、贈与により取得したものとみなして贈与税を課することとしています。これを「みなし贈与財産」といいます(注1)。
 みなし贈与財産には、下記のようなものがあります。

(1) 生命保険金等(相続税法5条)
(2) 定期金(相続税法6条)
(3) 低額譲受(相続税法7条)
(4) 債務免除等(相続税法8条)
(5) 信託受益権(相続税法9条の2から9条の5)
(6) その他の経済的利益(相続税法9条)


本件の、XさんとAさんとの土地の売買に贈与税を課す処分が下されたのは、上記の(3)低額譲受に該当すると課税庁側に判断されたためです。

以前の低額譲受のコラム・ケース1では、祖母とその孫、つまり親族間の売買取引が低額譲受とみなされて、贈与税の課税処分が行われました(後に処分等は取り消されて確定しました)。しかし、本件に出てくるXさんとAさんは親族(注2)ではなく、利害関係のない第三者です。

■では、第三者間の売買取引にも、低額譲受は適用されるのでしょうか?

 ここで、贈与税の納税義務者(贈与税を納める義務のある人)を法律の条文で確認してみましょう。相続税法1条の4は、贈与税の納税義務者を、「贈与(死因贈与を除く。)により財産を取得した個人」と定めています(注3)。つまり、「贈与により財産を取得した個人」は、親族であるかないかにかかわらず、贈与税を納める義務がある、ということです。

さらに、低額譲受を定めた相続税法7条の内容をもう一度確認してみましょう。

「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、その財産の譲渡があった時において、その財産の譲渡を受けた者が、その対価とその財産の時価との差額に相当する金額を、その財産を譲渡した者から贈与により取得したものとみなす。」

この条文の中に出てくるのは、「その財産の譲渡を受けた者」と「その財産を譲渡した者」であり、その関係を親族間に限定していません。そのため、法律の条文の解釈上、低額譲受は、第三者間の売買取引にも適用があるということになります。(続く)

注1:金子宏『租税法』(弘文堂、第23版、2019)706頁。
注2:民法725条は親族の範囲を、(1)六親等内の血族、(2)配偶者、(3)三親等内の姻族としています。
注3:金子宏『租税法』(弘文堂、第23版、2019)701頁。

※ 本件はさいたま地判平成17年1月12日をモデルとしていますが、事実の一部は異なります。
※ なお、本件は納税者側の主張が認められず、課税処分等が確定しています。

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