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高齢者医療に鍼灸はどう役立つか

水沼国男

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テーマ:高齢者と鍼灸治療

  2014年における日本の高齢者の人口は、65歳以上が3300万人、高齢化率は26%、75歳以上が1.592万人、後期高齢化率は12.5%に達している。現在の日本の高齢者人口は、25%を超える超高齢者社会となっている。また、2013年における平均寿命では、男性79.55歳、女性86.3歳と元気な高齢者が増加している。しかし、健康寿命は、男性70.42歳、女性73.62歳であり、平均寿命と健康寿命の差は、男性9.13年、女性12.68年であり、寿命を延ばすだけでなく、いかにQOL(Quality of life)を高く長く維持し健康で生活できるようにするかが重要である。このために平均寿命と健康寿命の間の期間をいかに短く有意義に生活するかが課題となっている。
 近年、 “フレイル”と言うことばが注目されている。それは、加齢に伴う様々な機能変化や予防能力低下によって健康維持に対する脆弱性が増加した状態である。実際には、移動能力、筋力、バランス、運動処理能力、認知機能、栄養状態、持久力、日常生活の活動性、疲労感などの要素が含まれる要介護手前の状態である。
 フレイルとなった場合でも、しかるべき介入(治療)により再び健常な状態に戻るという可逆性が含まれている。フレイルに陥った高齢者を早期に発見し、適切な介入(治療)をすることにより、生活機能の維持、向上を図る事が期待されている。このことから要介護状態に陥るのを防ぐ対策が課題となっている2)。これらの介入(治療)法の一つに鍼灸治療があり、フレイルの高齢者の予防及び治療法として有効であると考える。今後、日本の高齢化率は増加することから、高齢者医療での鍼灸治療のはたす役割は重要である。

フレイルの評価

 Linda P Friedは、虚弱の特徴として現れる徴候として以下の5つ集約されると発表している。
①力が弱くなること。
②倦怠感や日常動作がおっくうになること。
③活動性が低下すること。
④歩くのが遅くなること。
⑤体重が減少すること。
このうち3つあてはまると虚弱状態と考えられる。
我々は日々の臨床の中でフレイル状態の高齢者を早期に発見し対応ができるのではなかと考える。

日本の高齢者の健康状態の意識度

 2013年の日本の高齢者の健康状態の意識度は、健康意識も年齢と共に「よい」「まあよい」が少なくなり、「あまりよくない」「よくない」、日本の半数以上の高齢者は種々の症状や疾患を抱え、2割以上が日常生活に支障をきたしている。
 後期高齢者では、介護認定(要支援、要介護)を受けている割合が急増しており、日本の高齢者は必ずしも健康な状態ではない

介護給付実態調査および介護の必要となる原因

 介護認定を受ける人数は、2000年では218万人であったが、2012年4月に533万人と2.44倍に増加した。そのうち、要支援では、2000年では29.1万人であったが、2012年には141万人と4.82倍に増加している。
 また、2009年の介護給付実態調査では、高齢者の人口と要介護認定率は、65〜69歳では2.6%、80〜84では、26.9% 、85〜89歳では45.9% 、90歳以上68%で、80歳を超えると急上昇している。
 さらに、要介護別でみた介護の必要となった主な原因では、要支援の1位は、関節疾患、2位は、高齢による衰弱、第3位は、骨折、転倒であった。要介護では、1位が脳血管疾患、2位が認知症、3位は高齢による衰弱などの原因であった。

高齢者福祉施設での鍼灸治療

 これまでに1995年より高齢者総合福祉施設(特別養護老人ホーム、老人保健施設、ケアハウス)で鍼灸治療を行っている。高齢者福祉施設入所者の鍼灸治療での主訴を調査した結果、下記のような領域別に分けると、痛み(腰痛、膝痛、肩痛、上肢、下肢 等)などが48.9%、こりが13.8%、しびれが 4.9%と67.6%でこの3領域の合計は約7割であった。それ以外にも食欲不振、便秘、高血圧、風邪などの内科領域や手足の冷え、不眠、歯痛、歩行困難 その他の領域などが多く認められた7)。
①痛み:腰部、膝、肩、上肢、下肢、殿部 等、
②こり:肩、後頚部 等、
③しびれ:上肢、下肢 
④ 内科領域:食欲不振、便秘、高血圧、風邪 等
⑤泌尿器科領域:夜間尿、失禁、膀胱炎 等 
⑥脳神経外科領域:片麻痺、パーキンソン 等 
⑦外科領域:褥瘡 等 
⑧耳鼻科領域:耳鳴り、難聴、めまい 等 
⑨皮膚科領域:掻痒感 ⑩眼科領域:眼精疲労 等 
⑪その他:手足の冷え、不眠、歯痛、歩行困難 等

また、治療後は、全身状態や気分の改善が7割〜8割、ADLの改善も5〜6割の改善が認められたことが報告されている。
 施設での鍼灸治療では、以下のような改善が認められた。
1.腰痛、膝痛等の疼痛の改善することでADLの向上が認められた。
2.下肢の支持筋力、歩行状態の改善することで転倒の予防、活動範囲の拡大が 認められた。
3.全身状況(疲労感 等)の改善することで活動性の回復が認められた。
4.睡眠状態・排尿、排便状態、気分の改善することで活動性の回復が認められた。
5.気分の改善(精神的リラックス)をすることで精神状態の改善、うつの予防。
 
 高齢者福祉施設での鍼灸治療では、加齢に伴う身体的機能低下が起こり、身体の虚弱化、手足の動きの悪さ、疲れやすいなどが起きるとしんどい、面倒くさいなどの気持ちや心身の衰えに対する不安感が生じ、意欲の低下や活動性の低下をきたすことがあるが、鍼灸治療を行うことでこれらの状態を回避することが期待できる。

フレイル状態にある高齢者に対する鍼灸治療への期待

高齢者は、多疾患、多愁訴を有し、慢性で治癒し難いなどの高齢者に特有な病態をあらわすことから、QOLの向上および維持を目指した包括医療が重要である。また、フレイルに陥った高齢者を早期に発見し、適切な介入(治療)をすることにより、生活機能の維持、向上を図る事が期待できる。今後、治療施設での鍼灸治療だけではなく、地域の中でいかに鍼灸師が貢献できるかかが大きな課題になる。また、在宅ケア、福祉・介護サービスなどを包含もので地域ぐるみの個人に合った全人的医療の構築が今後課題である。

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水沼国男
専門家

水沼国男(はり師)

美山いずみ鍼灸院

大学で30年、研究・臨床・教育に携わり、高齢者福祉施設でも20年以上鍼灸に携わる。オーダーメイド・セルフケア・予防を重視し、健康維持・増進を支援。訪問鍼灸による地域のかかりつけ医のような鍼灸師を目指す

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