優しい遺言書のつくり方⑤ ~相続と遺贈の違い、遺言書をつくる時の注意事項ついて~
遺言者さまが、もしご病気などになって、意思表示が出来る見込みがない、またはその可能性がかなり低い状態になってしまった場合に、その後の積極的な延命治療などを望まないというお考えであったら、その意思表示に遺言書を用いる事が出来るのか、という問題があります。
回復の見込みがない病気になってしまった場合、胃ろうや人工呼吸などの生命維持を目的とする延命治療を望まず、人間としての死を望むということは「尊厳死」と呼ばれています。
これは、「延命治療の終了」を望むのではなく、最初から「延命治療の開始そのもの」を望まないという事になります。
尊厳死は、積極的な医療行為などで死期を早める、いわゆる「安楽死」とは異なりますが、それらに関しても様々な議論がありますので、海外とは違い、日本では明確な法律化がされていない状況にあります。
尊厳死を希望するという意思表示は、「尊厳死宣言」などと呼ばれていますが、それを遺言に記す事につきましては、適当ではないとされております。
それは、遺言書が遺言者さまが亡くなった時に効力を発生するものである事から、まだ生存している状態でのご自身のご希望についてはその効力を肯定を出来ない、という理由からです。
また、遺言書をご家族が見られるのは、遺言者さまが亡くなってから、という事が通常となりますので、見ていただくタイミングも適切とは限りません。
それでは、尊厳死を望まれる場合には、どのようにすればよいのでしょうか。
一般的には尊厳死を望むという意思が、その方の本心であり、現在だけでなくこれからもそのように考えている、という事が確認出来る書面をつくり、ご家族に託しておくことが考えられます。
ただ、それをご自身が書いておくというだけではなく、それが間違いなく本人の意思であり、かつ正常な判断において示されたものである、という事を証するため、「公正証書」によってそれを作成したり、尊厳死の普及を目的とする団体に加入し、「リビング・ウィル(終末期医療における事前指示書)」と呼ばれる、ご自身の生前の意思を宣言したりする、という方法が考えられます。
⇒「一般財団法人 日本尊厳死協会」など
ただ、これらの方法によりましても、明確な法律が整備されていない以上、その希望が叶う保証はありませんが、本人の明確な意思表示と、ご家族を含めた病院との信頼関係が、その前提になるのではないかと思われます。