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コラム

仲間に気づかされる

2023年2月10日

テーマ:組織改革

コラムカテゴリ:ビジネス

私には二十数年来の悪友Nがいます。

最後に会ったのは数年前ですが、昔は毎日のように二人で何時間も話し込んでいました。

Nとは、20代の頃に同じデイケアで働き、介護に対する価値観が似ていることから、仕事が終わってから、理想の介護について遅くまで残って話していました。

事業所が施錠された後も、事業所の前で夜中まで話したり、休みの日に喫茶店でコーヒー一杯で何時間も居座ったりと、話し合った時間で言えば嫁さんより遥かに長い。

その後、別々の職場になりましたが、
私が責任者を勤めた施設に、相談員としてNを呼んでまた一緒に働いていたこともあります。

そこを離れてからは
Nは現場一筋、私は管理職からコンサルの道へ。

進んだ道は違えど、私が最も信頼できる男であることに変わりありません。

そんなNが相談員、私が管理者として一緒に仕事をしていたデイサービスに、ある利用者さんがいました。

地域の他の介護事業所から要注意人物として利用を断られるくらい、いろいろと問題を起こしてくれる方で、
認知症があるわけでもなく、性格、思考、言動からトラブルになり、ケアの問題ではないので、どの専門家も関わろうとしない。

具体的なことは書けないですが、うちのデイでも数え切れないほどのトラブルを起こしてくれて、
「うちではこれ以上対応できない」と直接ご本人に伝えたことさえあります。

とはいえ、他のどこの介護事業所も受け入れてくれないので、結局ずっとうちのデイを利用されていました。

担当のケアマネさんも、「おたくのデイに見放されたらこの利用者さんが生活できなくなるんです」と。

毎日のようにスタッフや他の利用者さんからクレームがあがってきて、本当に胃が痛くなる思いをしていました。

しかし、ある時から、私はその利用者さんを「利用者」と見るのも手放し、一人の「人間」と見るようになりました。

介護サービスの利用者と見てしまうと、「利用者としてあるべき姿」「介護事業者として対応すべきか否か」でジャッジしてしまう。

それゆえに、その基準に合わないと「問題」になり、改善を求め、できなければ排除したくなる。

なので、一人の人間として見て、付き合っていくことにしました。

そう思うようになってからは、

「問題を起こす利用者」

ではなく、

「ちょっとわがままなオッチャン」にしか見えない。

それまで、問題点しか見えなかったのが、良いところが見えるようになり、
付き合い方もなんとなくわかってきた。

相談員の悪友Nは、私よりもはるか前にそうしていたように思います。

私よりも早く物事の本質を見ていたんだと思います。

もちろん、現場スタッフまでがそう思えていたわけではないので、相変わらず日々スタッフからクレームはあがっていましたが、

少なくとも私と、相談員と、現場責任者の3人はその利用者さんを「人間」として見ていた。

そんな彼の口癖は、

「お前のとこで死にたいわ」

でした。

デイサービスでそれはできない、と返していましたが、彼は本気だった。

何年も利用していたんですが、ある時期から急激に状態が悪くなり、歩くことも立ち上がることもできなくなっても、うちのデイ以外の選択肢を選ぼうとしない。

病院にも行ってくれない。

本来許されることではないですが、一人の人間として向き合っていたので、お互いケンカ腰で思いをぶつけ合ったこともあります。

それでも、最後には

「お前んとこがええんや、頼むわ」

と呟くように言われると、こちらが折れるしかなかった。

ケアマネさんも、民生委員さんも、うちのデイもみんな困り果てていましたが、私たちは覚悟を決めて、

「◯◯さんがあそこまで言うから、とことん付き合ってあげよう」

ということになり、もしもの時の体制を整えつつ、本人が意識を失うまで対応し続けました。

車椅子さえ通れない細い道が入り組んだ地形のアパートで一人暮らしをされていたので、立てなくなってからは、自宅から離れたところに送迎車を停め、歩いて迎えに行き、抱えてお連れしたことも何度もありました。

最後の最後までその人「らしく」、憎まれ口をたたき続け、いよいよ返事をしなくなったというタイミングで救急車を呼び、私と相談員と現場責任者も車で病院へ向かい、夜中に息を引き取るまで一緒にいました。

「デイで最後まで」は厳密に言うと叶えていませんが、意識を失う瞬間までデイにいてもらいましたので、ある意味希望に沿ったと思っています。

この経験以降、私はどんなに困難事例と言われる利用者さんと関わることになっても、「問題」とは思わなくなりました。

もちろん、身体的、精神的に負荷のかかる出来事は数え切れないほどありましたし、介護保険制度上問題にあたるケースだって日常茶飯事。

でも、「サービス提供者と利用者」、「援助者と要援助者」という枠組みにとらわれず、
「人間と人間」で見れば、さほど大きな問題ではなかったりする。

そして、そうなれたのは、Nの存在が大きい。

一人では気付けない、できないことも、

仲間がいれば気付ける、できる。

それが「組織力」だと思っています。

この記事を書いたプロ

太田英樹

介護業界をコーチングコミュニケーションで幸せにするプロ

太田英樹(株式会社インサイトハウス)

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