「ごめんなさい」を「ありがとう」に
もう20年以上前の話になりますが、特別養護老人ホームで働いていたことがあります。
20代後半だった私、決してベテランという年齢でも経験年数でもないんですが
その特養は開所からまだ4年ということもあり、職員さんも私より若い方がほとんど。
着任前から、「経験者が来る」といろいろ言われていたそうで、
初日から、「いろいろ教えてください」と言ってくれる人もいれば、
「経験者なんだから、これくらいできますよね」と最初から喧嘩腰の人もいたりと、こちらもかなり戸惑いました。
今でも忘れないのが、
勤務初日、ちょうどその特養の月に一回のカラオケの日で、
午後から2フロアの入居者様を一堂に集めて100人のレクリエーションがありました。
その誘導をしている最中に、
「経験者なんですから。レクの司会くらいできますよね?お手本見せてください」
と、吐き捨てるように言われ、無茶振りをされたこと。
こちらはか弱い新人スタッフで、入居者様のことはもちろん、職員の名前さえわからない初日に
いきなりレクの司会をやらされる羽目になり、怒りに震えました。
私もムキになり、
「そっちがそうくるなら、とことんやってやる」
と、誰にも真似できない司会っぷりを披露しました。
相手の性格も何もわからないのに、スタッフいじり、入居者様いじりの連続で大爆笑のレクを。
と、まぁ、ここまでは余談で、
その特養で、初めて夜勤を経験します。
特養で頑張っておられる方には申し訳ないんですが、私は本当に夜に弱い。
日中は、入居者の笑顔優先、というスタンスを貫き通していて、
どんなに忙しくても、入居者の前を素通りしない。
一声かけたり、笑わせたりして、コミュニケーションをとるようにしていましたが、
夜勤だと、そもそも静かにしなきゃいけないですし、眠っている入居者様のオムツ交換にまわるときも、眠気や疲労との戦い。
そんな中、ある女性入居者様のオムツ交換をしているとき、その入居者様が
「コロしてくれ」
と言ってきました。
当時の私は、意味がわからず聞き流しました。
2時間後にまたオムツ交換に行くと、また同じことをおっしゃる。
「バカなこと言わないで、眠ってください」
と返して、また部屋を出る。
3回目もまた・・・
ここで、ようやく私も考えました。
なぜ、こんなことを言うんだろう。
介護の仕事をしている私にとっては、高齢者が加齢や病気によって介助が必要な身体になって、私たちがお世話をする、
というのは当たり前でしたが、
高齢者にとっては、当たり前じゃない。
何歳になっても、異性に下半身の霰もない姿を他人に見られるのは恥辱であり、イヤイヤながら身を委ねてくれているだけ。
それに気がついたとき、
私たちの仕事は、オムツ交換をすることや、入浴介助をすることじゃない。
高齢者お一人お一人のこれまでの人生を受け入れて、
これからも生きていく活力を、希望をもってもらうこと、
そのことに気づきました。
高齢者お一人お一人の思いに寄り添うために、頭や心にある言葉、言葉にならない言葉も含めて全部出してほしい。
だから、「聴く力」「傾聴力」をあげないといけない。
そう思って、心理学を学び、心理カウンセラーの民間資格をとりました。
臨床心理士や公認心理士の方からすれば、資格とは言えない資格ですが、
あくまでも実践力を身につけることが目的だったので、それで良かったと思っています。
皆さんが当たり前のようにやっている「人の話を聴く」という行為。
それが、表面上の言葉を聞いているのか、言葉の奥にあるものまで聴いているのか、どちらでしょう?