プレゼン成功のためには、とにもかくにもアセスメント【プレゼンに笑いをプラスするコツ15】

田久朋寛

田久朋寛

テーマ:計画・改善術(笑いあるプレゼン)

プレゼンはアセスメントが命

「プレゼンに笑いをプラスするコツ」シリーズの第15回です。前回のコラムでは、プレゼンの振り返りにオススメの方法として、A-PIEプロセスを紹介しました。Assessment(事前評価)→Plan(計画)→Implementaiton (実施)→Evaluation(評価)の4つの段階からなる一連のプロセスです。今回は、第1段階のAssessment(事前評価)について取り上げます。

プレゼンや講座の実施が決まったらまず把握したいこと


多くの人の前でプレゼンや講座の講師をすることが決まったら、お話の内容を固める(計画の段階)前に、様々なことを確認します。この様々な確認の段階のことを、Assessment(アセスメント:事前評価)と呼びます。具体的には、次のようなことを事前に確認しておくとよいでしょう。

・参加人数
・参加者の興味・関心の度合い
・話す予定のテーマに対して、参加者がどの程度知識があるか
・参加者の年齢層や男女比 等

以上は主に人に関する項目ですが、人だけでなく、できれば会場の情報も知っておきたいところです。

・会場の大きさ
・使える機材(パワーポイントは使えるか?プロジェクターの端子は?)
・参加者の席から見えづらいものはないか 等

参加者一人一人のことを全員分把握することはもちろん不可能ですが、大まかな傾向だけでも、主催者に問い合わせするなどして確認しておくことをおすすめします。実際の話の内容を固める前に、参加してくれる人のことをしっかり想定しておくことが、プレゼン成功の秘訣です。

少し極端な例ですが、介護予防のための運動の効果についてプレゼンすることになったとします。あまり運動や介護予防に詳しくない一般市民の高齢者と、難関大学の医学系の研究室で勉強している学生では、興味関心の度合い、前提知識などがまったく違います。あまり詳しくない人に様々な研究データを間髪空けずにてんこ盛りで見せても、きっと興味を抱くことなく、半分以上の人が寝てしまうでしょう。逆に難関大学で研究している学生なら、むしろ検証に用いた統計手法などを詳しく説明しないと、理解を促進できません。高齢者同士で見ても、介護予防に関心があり元々活動熱心な方もいれば、自分には関係なく、友達や妻に連れられて仕方なく来た人が半分くらいと言うこともあるかもしれません。もし関心がない人が多いなら、身近に体験できる内容などを入れて、話に関心を持ってもらう所からスタートしなければならないかもしれません。学生なら話し方が単調で眠気を誘うものでも教育の一環で我慢させることも必要ですが、一般市民を対象にしたときは、わかりやすく楽しくお話しする技術も必要です。

ちょっと極端な例を出しましたが、参加してくれる人が何を望み、何を知っていて何を知らないのかを想定しておく事前評価は非常に重要です。事前評価の質が高いと、次の計画の質も上がります。参加者の想定ができたら、会場についても把握しておくとよいでしょう。当日行ってみたらプロジェクターの端子がいつもと違って大慌てというようなことは、事前に把握しておけば対策が打てます。

大道芸人はアセスメントが生命線


さて、話は変わって、大道芸のお話をしたいと思います。関東近郊だと上野公園や江の島、横浜のみなとみらい地区、関西圏だと海遊館で見かけたことがある方も多いのではないでしょうか。そのような場所では勝手に大道芸ができるわけではなく、審査に合格した人に許可証が発行されています。最近では屋内で大道芸のパフォーマンスを見かけることも増えましたが、大道芸人の主戦場は屋外です。しかも、最初は全くお客さんがいない状態からスタートし、見てくれるお客さんを増やし、最後に投げ銭をいただくクロージングまで成し遂げる必要があります。

大道芸一本で生きていけている人は、数々の審査に受かっていますので、ある程度整った環境であれば、お客さんを魅了する実力は当然持っています。しかし、理想的な環境が整うことは一年を通じてごく限られています。暑かったり寒かったり、歩いている人がいつもより少なかったり、駅に近いと他に目的があって長い時間止まってくれなかったりします。そこで、その日その場所のコンディションを見極め、芸の構成や長さを決めていくことが非常に大事になってきます。どんなに実力のある人でも、コンディションを見極めることに失敗すると、全然盛り上がらなくなってしまいます。まさにアセスメント(事前評価)でほぼ勝負が決すると言っても過言ではありません。

ベテランの大道芸人は、場所のコンディションを見極める目が非常に肥えています。先日、大阪梅田の商業施設の入り口で大道芸をしていた大道芸仲間をたまたま見かけたので、

「この場所はどんな感じですか?」

と聞いてみました。すると、次のような答えが返ってきました。

「今日はいつもより寒いのでリアクションが少し厳しいですね。おしゃれをして出かけてくる人が多いので、地べたに座ってみてくれる人は少ないです。駅への通り道で他に目的がある人がいるので、ビッグショー(※40分、50分かけて300人400人集客するパフォーマンスのことを、私たちはビッグショーとよく言います)よりも、短くまとめた方が良いですね。自分よりも〇〇さんの内容の方が相性がいいとは思います」

という返事が返ってきました(※1つ補足をすると、地べたに座る人が少ないと、後ろの方の人は見にくくなるので、目いっぱい人を集めることは難しくなります。人を集めることを目的にして無理に引っ張ったり、座ってもらうお願いをし過ぎない方が雰囲気が良くなります)。この大道芸人は今でも第一線で活躍し、私よりもずっと活躍しています。なぜ活躍できるか、すぐ納得できますよね。会場を一目見て、これだけのことを頭に入れて、どうすればより多くの方が満足できるか常に考えています。第一線で活躍できる人は場所の見極めの力は優れていて、私もお話ししながら、そういうチェックポイントがあったんだ、と勉強になっています。ところが、下手くそな大道芸人に同じ質問をしても、

「今日はノリが悪いですね。大道芸は厳しいですね」

くらいの答えしか返ってきません。「この場所はどんな感じですか?」という質問1つで、プロから見ればその人のレベルが一発で丸裸です。大道芸人はアセスメントが生命線です。

次回はA-PIEプロセスの第2段階のPlan(計画)について投稿します。

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田久朋寛
専門家

田久朋寛(セミナー講師)

大道芸人たっきゅうさん

大道芸人として13年のキャリアを持つ。老人介護施設や高齢者大学等で、大道芸とレクチャーとヨガをミックスした健康講演会「ユーモアセラピー」を開講。笑いの効果を生かし高齢者の心身の健康をサポートしている。

田久朋寛プロは京都新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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