【宗教法人の管理・運営(21)】 -事業-
東京地裁(令和6年5月28日)判決
事案の概要
平成28年10月頃、原告は、友人の紹介で、後継候補者を探していた被告寺院の住職と知り合った。
平成29年8月6日、原告と住職らとが寺院で話し合い、原告が住職の弟子となり、後継候補者として寺院に居住し研修すること、研修期間は最低1年以上、住職の妻と同額を原告に支給することなどを合意した。
平成30年9月下旬、住職は「証」と題する書面を原告に郵送した。
これには、原告が後継候補者となった場合、現住職夫妻は転居して原告が寺院に居住すること、原告に月額45万円を支給すること、住職を譲るまでの期間を1~1.5年と想定していることなどが記載されていた。
同年10月4日、原告は、住職の言葉を信頼し寺院の後継者候補として誠心誠意取り組んでいきたいと思う旨を記載した文書とともに、「証」と題する書面を住職に返送した。
平成31年1月、住職夫妻は転居する一方、原告夫妻が寺院に住み込み、本堂や法事での読経、境内や墓地の清掃などを行うようになった。
同月から同年11月まで、寺院から、原告に月額37万円、原告の妻に月額8万円が支給された。所得税は寺院が納付し、社会保険料は本人らが負担した。
しかし、令和元年6月以降、転居した住職が寺院に頻繁に滞在するようになり、同年8月には住民登録を寺院に戻した。
同年9月、住職は、原告を弟子にする意思がないと述べ、予定表の共有も中止した。
その後、住職夫妻やその娘が寺院に常駐するようになった。
同年11月5日、住職は、原告に対し、同年12月5日で研修を終了することを通知した。
原告は、原告と寺院との間には労働契約が成立し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めて、本件訴訟を提起した。
寺院側は、本件で成立した契約は、住職が原告を弟子とするかどうか決めることを目的として、原告夫妻に対する研修を行うことを内容とする住職と原告との契約であり、寺院と原告との間の労働契約であるという原告の主張を争った。
裁判所の判断
契約が労働契約か否かは、使用従属関係の下での労務の提供と評価するにふさわしいものであるか否かによって判断すべきである。
契約の成立
平成30年9月下旬、寺院側が原告に対し、寺院後継候補者として寺院に居住し、月額45万円の給与を受けながら住職になるための研修を行う契約を申込み、これを原告が10月4日に承諾し、寺院又は住職と原告との間に契約が成立した。
成立した契約の内容
指揮命令関係:
研修は住職の指導下で行われ、その指示に対する諾否の自由はなく、原告の自由な活動は認められず、時間的・場所的にも拘束(毎日7時~17時、寺院内)されていた。
賃金の支給:
毎月37万円が給与名目で支給されていた。所得税については、源泉徴収同様の処理がされていた。社会保険は未加入であったが、これは制度事情によるもので労働者性判断を大きく左右するものではない。
業務内容:
境内清掃、墓地管理、行事案内文書作成、来客・電話対応など、寺院運営に関する世俗的業務が相当割合を占める。黙示的な業務指示も認められる。
小括:
宗教的修行の側面は否定できないが、労務提供の対価として金員が支給され、労働契約と解するのが相当である。
契約当事者
研修は寺院運営に寄与するものであり、給与も寺院から支給されているから、契約当事者は住職でなく寺院である。
結論
本件契約は寺院と原告との間の労働契約と認めるのが相当である。
実務上の注意点
宗教法人や研修契約であっても、使用従属関係+賃金支給+業務内容の性質で労働契約と認定される可能性がある。
宗教的修行や奉仕の側面があっても、世俗的業務(清掃・事務・接客)とこれに見合う給与支給があれば労働者性が肯定される方向となる。
労働契約が認定されると、修行態度が不十分で後継者として認めないとの結論に至った場合、解雇の有効性(客観的合理的理由及び社会通念上の相当性の有無)が争われることがあり得る。



