【宗教法人の管理・運営(20)】 -財産の処分-
宗教法人とは、宗教法人法によって法人格を与えられた宗教団体をいいます。
つまり、宗教法人は、宗教団体が存在していることが前提なのです。
これが、株式会社など他の法人と異なる宗教法人の特徴の一つです。
そしてそのことが、寺院運営を難しくする理由の一つになっています。
それでは、なぜ宗教団体に法人格を与えるようにしたのでしょうか。
それは、礼拝施設を所有したり修繕工事をしたりする場合に、団体自身が権利義務の主体となれるようにして、その運営をしやすくするためです。
法人格を有する寺院は、宗教法人として財産を取得したり使ったりすることになります。
「寺の財産」を所有する主体は宗教法人ですから、すべて「宗教法人の財産」ということになります。
その一方で、宗教儀式そのものは、宗教団体として行われます。
宗教団体の代表者が住職であっても、宗教法人の代表者は代表役員です。
宗教団体の住職として儀式を主宰しつつ、宗教法人の代表役員として、例えば儀式に使う花や供物を購入するのです。
住職と代表役員とは同一人物であることがほとんどですが、別人であることも可能です。
他方、株式会社は、何もないところに設立されます。
その法人格の前提となるような団体は存在しません。
したがって、宗教法人のような二重性格性は存在しません。
営業活動も生産活動も福利厚生も、すべて株式会社として行います。
そして、誰もが会社の運営方針は取締役が決定するものと理解しています。
宗教法人の運営事務は、宗教法人法にしたがって、責任役員が決定します。
そして、その決定にしたがって、代表役員が運営を実行します。
これは、株式会社における取締役と代表取締役との関係に似ています。
しかし、宗教法人の利害関係人である檀信徒のほとんどは(時には住職自身も)、そういうふうには理解していません。
そもそも、代表役員とか責任役員とか、そういう呼び方の役員が存在することを知らないのが普通です。
総代とか護持会役員だとか、宗教団体としての役職のほうに意味を認めているのが一般的と言えます。
そのため、宗教法人としては、せいぜい諮問機関の位置づけであったりするこのような役職者が、ときに事実上の力を持ってしまうことになります。
ここに、寺院運営の難しさがあります。
もっとも、寺院は住職が運営するもの、と考えている方がほとんどであるかもしれません。
正しくはないですが、そうであれば運営の難しさはそれほどでもないでしょうし、寺院が平穏に運営されている状況下では、問題が生じることもありません。
このことからすれば、檀信徒に反対されることがないように、慎重な運営を心がけることがまず第一です。
もし、寺院運営を難しくするような動きがあれば、宗教法人法や寺院規則に則った組織のあり方に立ち返って、冷静に対応することが必要です。
行動の根拠を宗教法人としての法律や規則に求めつつ、しかし行動の外形は宗教団体の長として振る舞うのが、ある意味コツのようなところになるのではないでしょうか。