【事業者】契約書の作成とチェック
技術顧問の委嘱
早期定年退職となった経験豊富な技術者に、引き続き週3日程度出勤する技術顧問を委嘱することがあります。
このようなとき、技術顧問の委嘱によって得られた技術成果を会社が取得するという観点から、注意すべきことがあるでしょうか。
たとえば、技術顧問が委嘱された顧問業務を行う過程で発明を完成させた場合、会社と技術顧問との間の権利関係はどうなるでしょうか。
再雇用の場合
技術顧問を委嘱する際、会社との間で雇用契約を結び、再雇用することがあります。
このような場合、会社は「使用者」に、その技術顧問は「従業者」にそれぞれ該当することから、職務発明の問題となります。
職務発明とは、使用者の業務範囲に属し、かつ、従業者の職務に属する発明をいいます。
原則として、職務発明についての特許を受ける権利は発明者に帰属し、従業者が特許を受けたとき、使用者は通常実施権を取得することになります。
ただし、たとえば再雇用契約で定めておくことにより、特許を受ける権利を使用者が原始取得することができます。そして、このような定めをおくのが一般的だろうと思います。
もっとも、再雇用契約に定めをおくことにより会社が特許を受ける権利を原始取得できるのは、完成した発明が職務発明である場合に限ります。
職務発明でない発明について、あらかじめ特許を受ける権利を使用者が取得すると定めた契約は無効とされます。
したがって、会社が特許を受ける権利を契約で取得するには、その発明が使用者の業務範囲に属するのは当然の前提として、従業者の職務に属するものでなければなりません。
当該発明を完成させることが雇用契約書で具体的に委嘱されていれば、従業者の職務に属するものであることは明らかです。
しかし、そのような具体的な委嘱がない場合や、技術顧問が自ら開発テーマとして設定した場合はどうでしょうか。
このような場合は、技術顧問に委嘱された職務の内容から見て、当該発明を完成することがその技術顧問に期待されていると言えるか、その発明の完成に向けて会社が設備を供与するなど発明の完成に寄与していると言えるかと言う観点から、職務発明にあたるかどうかが判断されるのが一般的と言えます。
業務委託の場合
他方、再雇用ではなく、業務委託により、会社から顧問業務を委託するという場合もあります。
業務委託の場合、技術顧問は受託者であって「従業者」とはなりませんので、完成した発明が職務発明となることはありません。
この場合、技術顧問が完成させた発明について、特許を受ける権利は技術顧問が原始的に取得します。
会社は、業務委託契約の定めにより、技術顧問から特許を受ける権利の譲渡を受けることになります。
契約では、「委託業務を遂行する過程で完成した発明について、特許を受ける権利を委託者に譲渡する」などの条項がおかれることになります。
この条項からは、委託業務を遂行する過程で完成した発明でなければ、特許を受ける権利の譲渡を受けることはできません。
したがって、技術顧問に委託した業務が何か、どこまでの範囲が委託業務であるのか、これを正確に特定しておく必要があります。