経歴詐称で懲戒解雇したい
一般的に、雇用形態を「正規雇用」「非正規雇用」と区別して言われますが、これらは法律上の用語ではありません。
法律上は、無期雇用労働者、有期雇用労働者、短時間労働者という区別がされます。
「パート」「アルバイト」は短時間労働者にあたり、法律上、「労働者」であることに変わりはありません。
「派遣社員」というのは、雇用関係のない派遣先における立場を言う呼称です。
雇用関係のある派遣元との間では、無期雇用労働者か有期雇用労働者ということになります。
厚生労働省では、有期雇用、短時間労働、派遣労働を「非正規雇用」と呼んでいます。
厚生労働省の統計によると、2021年の非正規雇用労働者は、全雇用者5662万人のうち2075万人(36.7%)
となっています。
2019年に2173万人(38.3%)まで増えてから、わずかながら減少傾向にあるようです。
ただこれは、コロナによる人員削減の影響を、特に非正規雇用者が受けたということかもしれません。
年齢別に見ると、非正規雇用者のうち65歳以上が2010年で9.2%だったのが、2021年には18.9%となっています。
高年齢者雇用確保措置による定年後の再雇用によって、非正規雇用者が増えたと考えられます。
25~34歳では、2010年で17.1%(302万人)だったのが、2021年には11.4%(237万人)となり、減少しています。
コロナ前の2019年でも12.1%(264万人)でしたから、若年層の非正規雇用者は減少の傾向にあると言えそうです。
非正規雇用で問題となるのは、やはり正規雇用と比べて賃金が低いということでしょう。
厚生労働省が発表している2019年6月の賃金データによれば、短時間労働でない正規雇用者の時給ベースの平均賃金が2021円だったのに対し、同じく短時間労働でない非正規雇用者は1337円でした。
また、短時間労働でない正規雇用者では20歳代から年々賃金が増えて50~59歳でピークを迎えるのに対し、非正規雇用者では年齢による賃金の変化は見られません。
非正規雇用者は、経験を積んだ社員として重要な役割や責任を期待されて採用されているわけではない、ということなのでしょう。
このような非正規雇用と正規雇用との賃金差に関しては、近年、最高裁判決が出されています。
有期雇用労働者と無期雇用労働者の労働条件の相違については、改正前の労働契約法20条(現行のパートタイム有期雇用労働法第8条、第9条)が、有期雇用労働者の労働条件が無期雇用労働者の労働条件と相違する場合は、職務内容、配置変更範囲、その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない、と定めていました。
そこで、ある物流会社の有期雇用労働者が、同じ会社の無期雇用労働者との間で、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、通勤手当、家族手当、賞与、定期昇給、退職金に相違があるのは同条に違反しているとして、会社に対して差額賃金の支払いを求めました。
この事件の有期労働契約と無期労働契約とでは、
職務内容 同じ
配置変更範囲 無期:出向や全国規模の広域異動あり 有期:なし
等級役職制度 無期:あり 有期:なし
という違いがありました。
一審では、通勤手当の差額のみについて、労働契約法第20条に反するとされました。
控訴審では、無事故手当、作業手当、給食手当の差額についても、労働契約法第20条に反するとされました。
有期雇用労働者については勤務成績等を考慮して昇給する可能性があることから、皆勤手当支給の相違は不合理でないと判断しました。
しかし最高裁は、就業規則等において有期雇用労働者は昇給しないのが原則とされ、皆勤であることを考慮して昇給が行われた事情がうかがわれないという理由で、皆勤手当に関する相違も労働契約法第20条に反すると判断しました。
この判決をもって、○○手当は相違が認められないが○○手当は認められるというように、単純に考えるのは危険です。
手当の名称がどうであれ、結局のところ支給する趣旨や賃金体系における位置付けなどによって、処遇の相違が不合理であるかどうか判断されることになるからです。
上記の事件においても、皆勤であることを考慮して有期雇用労働者の昇給がなされていれば、皆勤手当に相違があることも不合理とされなかった可能性があります。
最高裁は、労働契約法旧第20条について、「有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件に相違があり得ることを前提に、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情(職務の内容等)を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される」と判示しています。
正規雇用と非正規雇用とに賃金差を設ける場合は、それが職務の内容等の違いに応じたものか、そしてその違いに応じて均衡のとれた処遇であるかどうか、留意が必要です。
正規雇用、非正規雇用という呼称には、企業のメンバーは無期雇用労働者であり、その調整弁やコストカットに利用するのが有期雇用労働者、そういう考え方が反映されているように感じます。
しかし、有期雇用労働者にこそ専門性を求めて高く処遇する、そんな考え方が必要とされる時がきているのではないかという気がします。