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定年後の再雇用 ~定年制度の終焉~

拾井央雄

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テーマ:中小企業の攻め方・守り方


厚生労働省の令和4年就労条件総合調査によると、定年制を定めている企業は94.4%で、一律定年制を定めている企業のうち60歳を定年とする企業が72.3%、65歳を定年とする企業が21.1%でした。
平成29年調査ではそれぞれ79.3%と16.4%でしたから、定年はいくぶん引き上げの方向にあると言えます。

定年については、高年齢者雇用安定法の第8条で、60歳を下回ることができないとされています。
さらに高年齢者雇用確保措置を定めた同法第9条により、定年を定めている場合には、65歳までの安定雇用を確保するため、①定年の引上げ、②継続雇用制度の導入、③定年の廃止、のいずれかの措置を講じなければなりません。
65歳を定年とする企業が増えたのは、平成25年、65歳までの雇用を義務化する改正法の施行に伴うものと考えられます。(なお、70歳までの就業確保努力義務を定める改正法が令和3年4月1日に施行されています。)

それでも定年の引上げを採用する企業は少数で、多くは②の継続雇用制度として、いわゆる再雇用制度を導入しています。
再雇用制度は、60歳の定年に達したときにいったん退職となるものの、本人が希望したときは、改めて雇用契約を締結するという制度です。
この制度が好まれるのは、新たに有期雇用契約を締結することとなるため、賃金を減額することで人件費を削減することが可能になるという点にあります。

しかし、業務内容が同じであれば、有期雇用契約であることを理由に不合理な待遇や差別的な取扱いをしてはならないこととされています(パートタイム有期雇用労働法第8条、第9条。以前は労働契約法20条)。
これが、定年後の再雇用による有期雇用契約であった場合はどうでしょうか。

定年後の再雇用による有期雇用で無期雇用と待遇差が生じたことの是非について争われた事件で、最高裁は、定年退職後に再雇用されたものであることは、労働条件の相違が不合理と認められるものにあたるかの判断において考慮される事情になる、としました。
無期雇用の労働条件が定年制を前提としているなら、定年後の再雇用とはその前提が異なるとも言うことができます。
最高裁は、結論としてこの事件の待遇差を不合理なものとは認められないとしました。
しかしそれは、待遇差の程度を考慮すればということであって、どんな待遇差でも不合理ではないと判断しているわけでは決してありません。

この点に関し、「正職員定年退職時と嘱託職員時でその職務内容及び変更範囲には相違がな」い原告について、「嘱託職員時の基本給が正職員定年退職時の基本給の60%を下回る限度で、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当」とした地裁判決があります。
これを安易に一般化することはできませんが、同じ労働条件で基本給を減額する場合のひとつの参考にはなると思います。
それなりの待遇差を設ける場合には、業務量や責任を軽減するなどの方法も併せて講じるべきでしょう。

今後は、現在は努力義務である70歳までの雇用が、年金支給年齢の引上げに伴って、現在の65歳までのように義務化されることも視野に入れる必要があるでしょう。
もはや終身雇用制度とともに、定年制度自体の存在意義が問われているようにさえ感じられます。

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拾井央雄
専門家

拾井央雄(弁護士)

京都北山特許法律事務所

エンジニア15年〜弁理士5年と弁護士としては異例の経歴を持ち、技術系分野に精通。知的財産や技術系法務のエキスパートとして数多くの事業者を支援。また自身が住職である立場から宗教法人のサポートも手掛ける。

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