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増加する学校でのトラブル、教師が問われる法的責任の範囲

2015年8月21日 公開 / 2021年2月26日更新

テーマ:外部サイトによる取材と解説

コラムカテゴリ:ビジネス

弁護士の田沢です。

弁護士の責任賠償保険があるのと同じように,学校の教職員を対象とする保険があるようですね。
そもそも,教職員は個人的に責任を負うことがあるのでしょうか。解説しました。
http://jijico.mbp-japan.com/2015/08/20/articles18356.html
【学校でのトラブルに対して教職員が負うべき責任は?】
 増加する学校でのトラブル、教師が問われる法的責任の範囲昨今の学校教育の現場は、モンスターペアレントの出現など、一昔前はそれほど問題にならなかったことまで問題視されるなど、教育環境は厳しさを増しています。教職員も勤務時間外にまで対応に追われ、疲弊しているといわれています。また、教職員の教育指導をめぐって保護者との間でトラブルになり、挙げ句の果てには損害賠償問題に発展することもあるようです。
 そもそも、教職員が学校教育活動に伴って児童や生徒に損害を与えた場合、これに対して個人的に賠償責任を負うものなのでしょうか。これについては、国・公立学校の場合と私立学校の場合に分けて考える必要があります。

【状況は国公立か、私立学校かで分かれる】
 まず、国・公立学校の場合、教職員の身分は公務員ということになりますが、国家賠償法1条1項は、「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」と定めています。
 この規定から、公務員たる教職員個人も賠償責任を負うことになるのか否かは判然としませんが、最高裁判所は国又は地方公共団体が賠償責任を負う場合には、加害行為を行った公務員個人は被害者との関係では賠償責任を負わないものと判断しています。
 他方、同法2項は、「前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があったときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。」とも定めていますので、被害者との関係で賠償責任を果たした国又は公共団体は、故意又は重過失で加害行為を行った教職員に対し、賠償額を求償していくことが可能です。逆に言うならば、軽過失しかない教職員は、被害者に対する賠償責任を負うこともなければ、賠償責任を果たした国又は公共団体からも求償されることはないということになるわけです。
 もちろん、国家賠償法の規定は、教職員が社会通念上その職務の範囲に属するとみられる行為で第三者に損害を与えた場合、国や公共団体が賠償責任を負うと定めたものです。職務とは全く無関係な行為で第三者に損害を与えた場合には、国や公共団体が賠償責任を負うことはなく、教職員個人が責任を負うことになるのは言うまでもありません。
 一方、私立学校の場合には、国家賠償法のような規定がないため、帰責性が認められる限り、教職員個人も被害者との関係で責任を負うことになります。

【裁量の幅を狭めれば硬直した教育しか行えないとの懸念も】
 ところで、教職員個人の加害行為によって賠償責任の問題が生じるのは、当該教職員に故意又は過失がある場合です。ここでいう「過失」とは、教職員としての注意義務違反(通常尽くさなければならない注意を怠ること)があることを意味します。しかし、教職員がその職務上要求される注意義務の範囲は一義的に明確なものではなく、「学校における教育活動及びこれを密接不離の生活関係について、児童生徒の発達段階に応じた注意義務を負う」ものとされているため、個別具体的な事情のもとに判断していくほかありません。
 「発達段階に応じた注意義務」とはいえ、個性のある児童や生徒を相手にするため手探りにならざるを得ないことも多々あり、相応の裁量が認められて然るべきともいえます。教職員個人の責任を安易に認めることになっては、その裁量の幅を狭めてしまうことになりかねず、硬直した教育しか行えなくなってしまいます。その意味では、注意義務違反と評価される部分と裁量の範囲内と認められる部分の境目を見極めることなど、とても難しいことではないでしょうか。

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http://jijico.mbp-japan.com/author/tazawatakeshi
http://www.chintai-hakase.com/answer/b_urban/index.html

この記事を書いたプロ

田沢剛

法的トラブル解決の専門家

田沢剛(新横浜アーバン・クリエイト法律事務所)

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