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成年後見制度の硬直化

2015年7月29日 公開 / 2021年2月26日更新

テーマ:高齢者

コラムカテゴリ:ビジネス

コラムキーワード: 成年後見 手続き

弁護士の田沢です。

家庭裁判所は,自ら責任をもって柔軟な運用をし欲しいです。
http://jijico.mbp-japan.com/2015/07/05/articles18037.html

認知症の女性の預金を私的に流用して逮捕された成年後見人の元弁護士が、最近になって、別の認知症の女性の財産をも私的に流用していたとして再逮捕されたとの報道がありました。このように、成年後見人に選任された専門家たる弁護士において、本人の財産を横領する事件が後を絶ちません。

そもそも、成年後見制度は、認知症、知的障害などで判断能力が十分にない場合、悪徳商法の被害に遭うなど、自分の財産を不利な条件で処分してしまったり、介護施設への入居契約などで不利な内容の契約を締結させられたりする可能性があることを危惧した制度です。成年後見人や保佐人等を選任し、本人を代理して法律行為を行ったり、あるいは本人の法律行為に同意したりして、本人の利益を保護するために平成12年4月から始まりました。

最高裁が公表している統計によれば、成年後見人の選任を申し立てた事件数は、平成22年は2万5000件足らずだったものが、平成26年は2万7000件強と増加しており、平成26年に限ってみれば、本人の親族が成年後見人に選任されたのが全体の約35パーセント、それ以外の約65パーセントは第三者(弁護士等の専門職)が選任されています。

成年後見人による本人の財産横領事件は、何も弁護士等の専門職によるものに限らず、親族が成年後見人となっている場合でも生じています。しかし、高度な倫理観を求められる弁護士の横領事件はやはり世間の耳目を集めることになります。なぜ、弁護士が一線を踏み越えてしまうのか、また、どうしてそのような事件が後を絶たないのか、極めて忌々しき事態です。

まず、弁護士のような専門職後見人の場合、家庭裁判所も専門職にあるがゆえの信頼を前提にして、親族後見人の場合のように別途後見監督人を付さないため、監督が不十分になってしまうという現実があります。家庭裁判所への報告は、基本的には年1回しかなされません。後見監督人が付されている場合には、後見監督人への報告を3、4カ月に1回行うことになっていますが、後見監督人が付されていない場合には、家庭裁判所への年1回の報告のみとなり、不正を見抜く機会が乏しくなります。

そもそも、弁護士は、ボランティアで成年後見人に就任しているのではなく、事業活動の一環として報酬を得る目的を持っています。司法制度改革により弁護士の数が激増する一方で、一般の民事事件や刑事事件は逆に減少しているため、経済的苦境に陥る弁護士が増えていると聞くため、こうした背景も全く無関係であるとは思えません。現に、不正を働いた弁護士の中には、事務所経営の悪化が動機であると説明した者もいるようです。

後を絶たない弁護士の横領事件を受けて、東京家庭裁判所では最近、弁護士が成年後見人に選任された場合でも、後見監督人を付する運用を開始しました。成年後見人による報告の機会を増やして不正を食い止めたいところでしょうが、このようなことは、家庭裁判所が自ら積極的に監督に乗り出せば足りるのではないかと思われます。

後見監督人を付すということは、その分の報酬も本人の財産から賄われることになるため、成年後見人に対する報酬の支払を含めれば、本人の財産がどんどん目減りしていくことになるのは目に見えています。本人の財産を守るためにその財産を目減りさせるのは背理であり、家庭裁判所は自らの監督責任を放棄しているとのそしりを免れないのではないでしょうか。

関連コラムはこちら↓↓
http://mbp-japan.com/kanagawa/uc-law/column/13247/

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この記事を書いたプロ

田沢剛

法的トラブル解決の専門家

田沢剛(新横浜アーバン・クリエイト法律事務所)

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