兼業主婦の損害賠償

田沢剛

田沢剛

テーマ:交通事故に基づく損害賠償請求

弁護士の田沢です。

兼業主婦として,男性と同様に仕事をして来られた女性(Aさん)の交通事故損害賠償を担当しました。その方は,すでに成人に達してアルバイトをしている娘さん(Bさん)と暮らしておられるのですが,家事はもっぱらAさんが担当していました。ということは,Aさんは,昼間は外で仕事をしながら,それ以外の時間をやりくりしてBさんのために家事までこなしているということなり,並々ならぬ努力をされていることが分かります。女性の社会進出が進み,共働き夫婦も多くなっている中で,それでも女性が家族のために家事までこなしていることは多いと思うのですが,第1審裁判所は,一人暮らしの人間が自分のために家事をしているとしても,それを家事労働とは認めないことの延長として,AさんとBさんは共に女性であり,それぞれが自分のために家事を行うことができるのだから,Aさんが家事労働をしているものとは認めないといった判断をしました。Aさんは,実際にBさんのためにも家事をしているというのにです。第1審裁判所の判断でおかしいのは,娘さんのBさんが成人女性だし,アルバイトをしている程度だから,家事をやって当然だという偏見に基づいているのではないかと考えられるところです。もしも,Bさんが,女性ではなく,男性だった場合にも同じ判断ができたでしょうか。母親が,成人の息子と二人暮らしであった場合,母親がその息子のために家事をするということは,よくある話ですし,その母親が家事労働をしていることを否定することは想定できません。けれども,Bさんが女性であった場合に,その母親が家事労働をしていることを否定するなどということは,「女性(ここではBさん)は家事を担当して当然」という価値観が前提にあることになります。また,アルバイト程度だから家事を担当して当然だと判断するのは,アルバイトをしている人は,時間的に余裕があるものと決め付けていることになりますが,非正規労働者の割合が増えている今の世の中の現状を把握していない証拠です。アルバイトをしているとはいっても,より多くの収入を求めて複数のアルバイトを掛け持ちすることもあるでしょうし,空いている時間には,キャリアップを求めて資格を取得すべく勉強をすることだってあるでしょう。第1審裁判所の判断には怒りを禁じ得ず,Aさんの承諾を得て控訴したところ,控訴審は,Aさんが家事労働をしていること(主婦性)を認めてくれて,賠償額も増額されました。

奥さんの方が賠償額が多い??
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田沢剛(弁護士)

新横浜アーバン・クリエイト法律事務所

裁判官時代に民事,刑事を含めて様々な事件を担当しました。紛争処理にあたり,裁判所がどのような点を問題にしているのか,どの部分の証拠が足りないのかなど,事件の見通しを踏まえたアドバイスを心掛けています。

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