損害を拡大させない義務

田沢剛

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例えば,交通事故により損害を被った被害者は,加害者に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権を取得します。被害者と加害者は,債権債務関係に入ることになるので,信義則上,被害者には損害を拡大させない義務が生じると最高裁判所は判断しています。商売をしている被害者が車両を損傷して修理に出さざるを得ない状態となり,他方で,その間は代車を借りなければならないとすると,代車料がかかってしまいます。被害者としては,さっさと修理出にして修理が完了して引き取るまでは,代車の使用が可能なのですが,「どうして自分が修理に出す手配をしなければならないのか。」と腹を立てて,損傷した自動車をそのままある場所に保管する一方で,代車を借りて,加害者には代車料の支払を続けさせるという場合,どのように考えたらよいでしょうか。最高裁判所の考え方からいくと,被害者といえどもさっさと車両を修理に出して,代車の使用期間をなるべく少なくして代車料を抑える義務があるということになると思われます。以前,加害者側の保険会社の代理人として交渉にあたった経験があるのですが,被害者からは,「どうして被害者である自分がわざわざそんな手間をかけないといけないんだ!悪いのはそっちなんだから,そっちが車両を引き取りに来て修理に出したらいいじゃないか!」と言われたことがありました。最高裁判所の判例を説明しても,落ち度もない被害者になんで更に手間を掛けさせるのかという気持ちからでしょうが,納得されることはありませんでした。加害者側の代理人として交渉していると,段々と被害者の言い分はもっともだと思うことがしばしばです。いくら判例があったとしても,納得できない被害者の気持ちってあるんですよね。被害者の言い分がもっともだと思ってしまうと,もう保険会社の代理人として保険会社に有利にするための交渉はできなくなります。それでも心を鬼にしてやっておられる弁護士はいるのかも知れませんが,自分には不向きでした。

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田沢剛(弁護士)

新横浜アーバン・クリエイト法律事務所

裁判官時代に民事,刑事を含めて様々な事件を担当しました。紛争処理にあたり,裁判所がどのような点を問題にしているのか,どの部分の証拠が足りないのかなど,事件の見通しを踏まえたアドバイスを心掛けています。

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