相続法改正で争続は予防・解消できるか?! (3) これで「長男の嫁」が相続できると思ったら大間違い?!
およそ40年ぶりに、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(以下、改正相続法)が成立しました。今回の法改正の目的は、社会の高齢化の進展とともに相続開始時において高齢化した配偶者の保護を図るとともに、遺言の利用を促進することで相続をめぐる紛争を防止することにあると言えるでしょう。そこで、これまで神奈川・平塚を拠点に8年間相続専門に取り組んできた法律専門職の立場から、改正相続法は私たちにどのような影響を及ぼすのか、この数年で急増中の相続トラブルを未然に防止することができるのかについて、6回シリーズで徹底分析していきます。
さて、最終回の6回目は「配偶者居住権」を見ていきます。これまで、被相続人が遺言を残さずに死亡した場合、死亡と同時に相続が開始し被相続人が所有・居住していた建物も相続財産として相続人の共有状態になってしまいました。しかし、これでは土地建物が相続財産の大半を占めて現預金がほとんどない場合、他の相続人から売却による遺産分割を主張されることで残された高齢配偶者が唯一の相続財産である土地・建物を売却して遺産分割をせざるを得ない状況に陥り、残された高齢配偶者の住まいが危うくなる事例がよく見られました。そこで、配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の土地・建物を対象として、終身又は一定期間、配偶者にその使用および収益を認めることを内容とする「配偶者居住権」(短期ではないことに注意)を新たに創設しました。
しかし、日々一般市民の相続手続きに関与している法律専門職にとっては、今回の相続法改正、特にこの「配偶者居住権」の新設についても、内容・効果にかなりの疑問を感じます。まず、(1)「配偶者居住権」も、先月の配偶者短期居住権と同様に法律婚の配偶者に限られており、内縁配偶者や事実婚のパートナーには認められませんが、残された配偶者の居住の保護の必要性は法律婚かどうかに限られません。また、(2)「終身またはかなりの長期にわたって」配偶者が無償で建物に居住できることになると、遺産分割協議をいたずらに複雑化させるばかりか、その後において配偶者が施設に入居するために売却が必要になった場合に対応が困難になるのではないでしょうか。もちろん、高齢配偶者の居住の保護は必要ですが、これでは相続人どうしの感情的な人間関係を壊すことなく速やかに円満に相続手続が進められるのとは思えない、むしろ相続トラブルの種があちこちに見え隠れしているのではないかと不安に感じてしまうのです。
被相続人が公正証書で遺言を作成しておけば、残された配偶者の居住の問題はほぼ回避することができます。そして、相続手続を迅速・円満に行うためにも、遺言書の中で遺言内容を確実に実現できる良心的な代理人(遺言執行者)を忘れずに指定しておいてください。弊事務所にお越しいただければ、私が42歳の時に書いた実物の遺言公正証書をお見せしながら、相続法改正を上手に活用しつつ、さらに残された配偶者の居住の不安を解消し確実なものにするためのただひとつの秘策をあなただけにそっとお教えします。
だからこそ、これからも私は、遺言者の想いと残された配偶者の願いが理解できる法律専門職として、ひとりでも多くの方に『夫亡き後の妻を困らせない遺言書』のご提案をし続けていきます。