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高齢ドライバーによる交通事故が相次いでいます。原因としては、運動能力や判断能力の低下、さらには認知症などいくつか挙げられているようです。一方で、高齢者自身による運転免許証の自主返納は進んでいるとはいえず、ある統計では2パーセントとも言われています。このような状況に鑑みて、一部では『ある一定の年齢、例えば満80歳に達したら法律で強制的に免許証を返納させればいい』、などという意見もあるようですが、こうした本質を見ないちょっと乱暴な議論に危惧しています。
なぜなら、運動能力や判断能力、さらに認知症の有無については千差万別であり、一定の年齢に達しているからと言ってひとくくりにすることなど出来るはずがありません。だからこそ、運転資格が強制的に制限・はく奪される場合というのは、誰が見ても納得できるように道交法をはじめとする各法律に明記されているのです。そもそも、運転免許を取得・保持するかは各個人の判断と責任に委ねられているのであって、個人の事情や能力が様々な分野まで一律に法で規制すること自体が土台無理な話なのです。
同じように、一部の方から相続制度の改正を望む声が上がっています。例えば、配偶者の法定相続分を子よりも引き上げるべきだ、介護を負担した相続人と負担しなかった相続人が同じ相続分なのはおかしい、だから現在の民法を改正してこれらの不都合を是死すべきだなどと主張されているようです。
しかし、それぞれの夫婦、各家庭における事情や経緯はそれこそ千差万別です。夫婦関係は様々であり、例えば婚姻期間が20年以上など、単なる婚姻期間の長短だけで一律に判断することが果たして本当に妥当でしょうか。また、そもそも『介護を負担した相続人』自体がきわめてあいまいな概念であり、介護の内容や度合い、費やした時間や費用などは各家庭の数だけ事情があると言ってもいいのはないでしょうか。だからこそ、現行法は法定相続分を原則としており、それと異なる対応を望むのであれば本人自らが遺言等を作成することで配慮を求めるべきである、という姿勢を貫いていると私は理解しています。
このように考えてみると、運転免許証を返納するかどうか、相続問題をどうするか、両方とも根底は同じ問題だと考えることはできないでしょうか。これらは法で規定されたからそれに従うような性質のものではなく、どちらも各個人がしっかりと自分に向き合って考えながら備えていくべき問題なのです。『自分だけは(我が家に限っては)大丈夫だ』、『運転免許証の返納なんて(遺言書を書くなんて)まだまだ早い』と考えてしまうのも、決して理解できなくはありません。しかし、両方同時に試すことはできないのが人生であり、どちらの道を選んだとしても、その結果はすべて自分自身で受け止めて責任を負う必要があることも忘れないでいただきたいと思っています。
これからも私は、この地域の高齢者を支える法律専門職として、ひとりでも多くの方に『自分自身の人生に正面から向き合ってきちんと備えていくこと』の大切さと必要性をお伝えしていきます。