平塚でおなじみの相続の専門家がラジオで語る ~ 子どものいない夫婦の相続 ~
今月の放送は、街のあちこちで銀杏や紅葉が色づき始めていました
11月も後半に入り、日没の時刻もすっかり早くなってまいりました。相続まちなかステーションのある神奈川・平塚でも街の街路樹はすっかり落葉して、いやおうなしに冬が近づいていることを教えてくれていますが、そんな冬支度の必要を強く感じた11月20日(木)にFM湘南ナパサ『ナパサタイムスアフタヌーン』にコーナー出演してまいりました。
番組の内容 ~ 相続税対策の注意点について ~
2015年1月より相続税の課税が強化されて、これまでの非課税枠が縮小されることは皆さんご承知のとおりです。そして、この機会を最大のビジネスチャンスとしたい信託銀行やハウスメーカーなどが、一般の方を対象に相続税対策を強く勧めているようです。しかし、目先の節税だけを重視した無理な対策や不要な対策を勧められるケースもあるようでトラブルも多発しています。そこで、ぜひ一般の方のために相続税対策に対する正しい情報をご提供したいと思いますが、まずは恒例の相続・遺言に関する基礎知識の確認をすべく、番組パーソナリティの滝島幹和さんに答えていただくところから始めてみました。
【設問】
次の、相続や遺言に関する記述のうち、正しいものはいくつあるか。
① 葬儀にかかった費用は、相続財産から控除されて相続税が課税されない。
② 生命保険は相続財産ではないので、相続税がかかることはない。
③ 養子縁組をすると法律上嫡出子として扱われるので、なるべく多く養子縁組をすれば
それだけ相続税を節税することができる。
④ 遺言書の中で、甥を養子にしたいと記載があった場合、被相続人の死亡によって養子
縁組が成立することもある。
さて、正解はいくつあるでしょうか。
まず、(1)葬儀にかかった費用は、相続財産から差し引くことができますので、相続税の課税対象にならないことになります。また、(2)混乱しやすいところですが、生命保険金は遺産分割協議の場面では相続財産とはならず受取人のものとなりますが、相続税を申告する場面においては一定の控除額を超えると相続財産として申告が必要となることもあります。そして、(3)養子縁組をすれば嫡出子としても身分を取得することはその通りなのですが、相続税の課税義務を免れることを防止するため相続税を計算する場面においては、養子縁組による非課税控除枠の拡大は無制限に認められていません。さらに、(4)遺言によって認知をすることは認められていますが、遺言によって養子縁組をすることは法律上認められていません。
以上より、(2)と(3)と(4)は誤りであると考えられるため、正解は(1)の1個となります。
【相続税対策の注意点について】
来年の税制改正を念頭に、相続税対策、特に相続税節税ビジネスが過熱の様相を見せています。それと同時に、相続まちなかステーションにも、相続税節税におけるトラブルの相談が持ち込まれるようになりました。
あるハウスメーカーでは、賃貸住宅を建てることによって相続税節税ができると大々的に宣伝をしていますが、ここには隠された大きなリスクがたくさんあることをご存知でしょうか。
確かに、少し広めの土地をお持ちの方にとっては、賃貸住宅あるいは賃貸併用住宅を建てることで不動産の評価額を減少させることができるのは事実です。その上、家賃収入が年金の足しになる、しかも30年間家賃が保証される、などと矢継ぎ早に宣伝文句を並べられると魅力的に映ってしまうことも無理はありません。
しかし、このハウスメーカーのアパート経営のお誘いにはリスクもあるのです。まず、第一にそもそもの建設費がかなり割高であるということです。材料費や人件費、さらには宣伝広告費を回収するためには、自社の顧客にならなかった方への営業経費も含めて自社の顧客になった方へ上乗せせざるを得ないのですから、当然といえば当然のことでしょう。また、第二に30年間家賃保証のうたい文句にもカラクリがあります。そもそも、初期に設定する家賃が近隣相場より低めに設定されることが多く、しかも数年後に空室が目立ってくるとさらなる家賃の値下げ要求などもあると聞きます。しかも、ハウスメーカーの指定したスケジュールで保守点検を受けなければ保証は打ち切りとなり、同時に家賃保証もそこでおしまいとなる特約が結ばれているケースがほとんどでしょう。さらには、それら保守点検も当然のごとくハウスメーカーの子会社等が担当することが約定されており、その費用も割高であることがほとんどです。
少し冷静に考えてみれば、他人の土地にアパートを建てて30年間家賃を負担して儲けさせてくれるようなお人よしの会社などこの世の中にあるはずもありません。事実、100万円の相続税を節税するために、5000万円以上も借り入れをして3階建ての賃貸併用住宅を建ててしまった70代前半の男性もいらっしゃいます。サラリーマンを退職し、子育ても終わりやっと奥様とのんびり過ごすことを楽しみにしていたごく普通の庶民の彼にとって、これは本当に必要な相続税対策だったのかと、私にはいまだに疑問を持っています。
そこで、過熱する相続税の節税ビジネスに対する注意喚起も含めて、相続税対策の注意点を挙げてみました。
(1)目先の利益に惑わされず、本当に必要かどうかをよく見極めること
→ 相続税を納める必要のある方は、現状100人中3~4人程度。来年度の税制
改正後は、これが100人中7~8人程度になるといわれていますが、今後も9割
以上の方は相続税を納める心配はありません。目先の利益にとらわれず、本当に必
要かどうかを慎重に見極めること。
(2)複数の専門家の客観的な意見をよく聞くこと
→ 様々な業種が相続ビジネスに参入してきていますが、どこもみな自分に都合の
いいことを強調して、デメリットやリスクはなかなか話してくれないということが
見られます。医療の世界では、複数の医師に対して見解を求めるセカンドオピニオン
が浸透していますが、相続税対策も分野の異なる複数の専門家の客観的な意見を求め
ることが大切
(3)客観的な第三者にシミュレーションを依頼する
→ 相続税の計算については、ハウスメーカーや銀行ではなくまったく利害関係のない
独立系の税理士やFPなどに依頼して、相続税対策をすることによっていくら費用が
かかりどれくらい相続税が節税できるのか、シミュレーションを依頼する手も。
番組出演の感想
今回のテーマは『相続税対策の注意点 その2』でしたが、過熱する相続税節税ビジネスによって一般の消費者が不要な相続税対策をしてしまうケースが急増しています。そこで、ひとりでも多くの方が正しい認識を持っていただくとともに、判断に迷った時には金融機関の担当者の説明を鵜呑みにしてしまうことなく、私たち法律専門職に対しても相談してもらうことの必要性についても理解していただくきっかけをご提供できたとすれば何よりであると感じました。
来月以降も、身近な相続・遺言に関するテーマを題材にしながら、地域の皆様に役立つ情報をご提供できるよう頑張ってまいります。最後になりましたが、滝島幹和さん、山田博康さん、そしてお聞きいただいたリスナーの皆様、ありがとうございました。