桜の季節に想う ~ どんな寿命にも永遠はない ~
突然ですが、あなたは自分が病気や事故で最期を迎えたとき、自分の臓器を提供するかどうかを決めていますか。あなたの意思は、「臓器提供意思表示カード」に記入しておくことで伝えることができます。そして、2年前に臓器移植法が改正されて、本人の意思が不明な場合には家族の承諾があれば臓器提供できるようになりましたが、私個人としては本人の意思が不明確である場合に家族の同意を求めることは慎重であるべきではないかと捉えています。
なぜなら、まず、第一に、同意を求められた家族の間で常に意見が一致するとは限らない点です。配偶者と子とで意見が一致しない場合や子の間でも意見が一致しない場合、どうやって結論を出したらいいのでしょうか。そして、第二に、家族は大切な人を失い肉体的にも精神的にも疲労・混乱した状態で臓器移植についての同意・不同意を求められる可能性があるという点です。そのような状態で同意を求められた場合に、どれだけの人が冷静な判断をできるのでしょうか。さらに、第三に、本当は、臓器提供したくない家族に対して、いわば強要のような形で臓器提供を迫られたりすることは絶対にないと断言できるのでしょうか。
確かに、臓器移植を考えるということは、自分自身の死に向き合うことにほかならないことから、そんなこと考えたくもない、という気持ちも決して分からなくはありません。
しかし、あなたが考えることをしなければ、あなたの家族はあなたの亡き後に、肉体的にも精神的にも疲労・混乱した状況の中で、あなたに代わってつらい選択をしなければなりません。さらに、あの時あの選択でよかったのだろうかと、家族は一生後悔や自責の念を持ち続けることになるかもしれません。
だからこそ、あなたがこの世を去ったあとで、あなたの大切な家族を迷わせたりつらい思いをさせないためにも、自分の要望や想いは心の中にしまっておくだけではなくて、自分の大切な人に意思表示をして伝えておくことが必要になります。イエスでも、ノーでもどちらでもいいのです。まずは、話し合うところから始めてみませんか。
そして、臓器移植について考えることができたら、その次はあなたがこの世を去った後であなたの家族を無用・不毛な相続トラブルに巻き込まないためにも、もうひとつ意思表示されることをお勧めします。
いつもお話ししていることですが、遺言がなければ法定相続が原則となり、誰が何を相続するかの話し合いをしなければなりません。しかしながら、当事者同士でこの話し合いを冷静にできる人たちは減る一方で、残念ながら相続トラブルになってしまうケースが後を絶たず、最近では年間で1万件を超える遺産分割調停が裁判所に申し立てられている有様です。
これらの原因の多くは、亡くなった方の想いを知ろうとするあまり、相続人同士で意見や感情が対立してしまうケースが大半です。亡くなった方の想いが込められて、しかも相続人全員に対して少しずつ配慮が施された遺言さえあれば、こんな醜い相続トラブルにはならなかっただろうにというケースを私はイヤというほど見てきました。
いつかあなたがこの世を去った後で、残された家族はあなたの想いを知ろうとするあまり醜い争いになってしまう可能性は本当にないと断言できますか。あなたの大切な家族を思いがけない相続トラブルから守ることができるかどうか、それはほかならぬあなたのちょっとした心がけにかかっているのです。まずは、あなたの大切な家族の顔を思い浮かべながら、少しずつ考えるところから始めてみてはいかがですか。