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節税重視の対応が招いた相続トラブル事例(3) ~ 税理士によって引き起こされた争続の悲劇 ~

加藤俊光

加藤俊光

テーマ:円満解決の極意【相続相談の現場から】

 相続対策にはいくつかのアプローチ方法があるのですが、これらを間違えてしまうととんでもない相続トラブルを引き起こしてしまうだけではなく、相続人同士の人間関係を修復できないくらい決定的に壊してしまうことがあるのです。

 3人の息子さんがいるご夫婦がいました。10年ほど前に奥様に先立たれたお父様は、ご自身が亡き後の相続対策として知り合いの税理士に相談をしたところ、このままでは相続税が課税される可能性があることから節税対策として現在同居されている次男の妻と養子縁組をして法定相続人を増やすよう助言をされたことから、お父様は次男の妻と養子縁組をされたそうです。

 ところが、この税理士の助言が後にとんでもない相続トラブルを引き起こすことになってしまいました。数か月前にお父様が亡くなられて無事に四十九日も過ぎたので相続人同士で遺産分割協議をはじめたところ、亡くなったお父様と次男の妻が養子縁組をしていたことを知った三男の方が『なぜ、自分たち兄弟に何の相談もなく養子縁組などしたのか。遺産である土地建物の法定相続分は、自分が生きている間は絶対に譲らない。出るところへ出ても法定相続分の登記はしっかり入れてもらう』と主張されてしまい、どうしたものかと困惑した次男の方がご相談においでになられました。

 世の中には相続業務に携わっている国家資格者が大勢いますが、残念ながらこの税理士のように『人間関係が壊れても節税を重視する』ような対応をする人がいるのも事実です。

 特に、私が一番問題だと感じたのは、この税理士は相続人同士で誰が何を相続するかの話し合い、いわゆる遺産分割協議において相続トラブルが起きることを想定できなかったらしく、相続トラブルを未然に回避して円満な解決を実現するための『争わないための遺言書』を準備することを相談者に提案していなかったことです。

 思うに、自分の知らないところでいつの間にか相続人が増えているということは、当然ですが各相続人の相続分が減ることを意味します。

 とすれば、きちんとした遺言を作成するのはもちろんですが、遺言の中で養子縁組をするに至った経緯を伝えるとともに、他の相続人に対する配慮をして理解を求めて、なおかつ遺言書の保管や遺言内容の実現は他の相続人から誤解を受けないためにも次男に任せるのは避けて、私どものような公平な第三者である専門家に委ねておいてくれたならば、おそらく相続トラブルにならなかったと私は自信をもって言えます。

 はたして、法定相続人をひとり増やしたことでいくらの相続税が節税できたのか、私は税の専門家ではないので分かりませんが相続財産から考えてもせいぜい数十万円というところではないでしょうか。特に、税理士の中には相続税を節税することばかりに目がいってしまって、いま一般の方に急増している遺産分割協議におけるトラブルを非常に甘く見ている人が多いことに危惧感を持っています。たとえ、わずかな相続税を節税できたとしても、相続人同士が当事者同士で解決できないほどに対立してしまって、長い時間と高額な費用をかけて裁判所で決着を図ることほど不毛で無駄なことはないのではないでしょうか。

 私は、日本全国から、そうでなくともせめて私の周囲から、不毛な相続トラブルに巻き込まれて『こんなことになるとは思わなかった』と途方に暮れてしまう方をなくしていきたい。そのためにも、一般の方にはわずかな相続税を節税することよりも、遺産分割協議におけるトラブルを未然に防止することにもっともっと関心を持っていただきたいと願っています。

 そのためにも、これからも私は、ひとりでも多くの方に『争わないための遺言書』のご提案をし続けていきます。

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加藤俊光
専門家

加藤俊光(行政書士)

相続まちなかステーション/加藤法務行政書士事務所

単身者・子どものいない夫婦世帯が人生の最終章で直面する介護や医療、金銭管理、死後の事務手続、お墓、ペットなどの切実な問題に寄り添い解決。地元の在宅医療・介護の専門職と密接な連携が取れる体制にも自信あり

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