そのうちきっと何とかなるだろう?! 時間は解決してくれない遺産分割問題 その1

加藤俊光

加藤俊光

テーマ:円満解決の極意【相続相談の現場から】

 少し前に、弊事務所にひとりの男性がご相談においでになったことがありました。数か月前にお亡くなりになったお母さんがお書きになったという自筆証書遺言も一緒にお持ちになったので、私はそれを拝見させていただきました。

 その遺言書は、『全財産を長男A(相談においでになった男性)に相続させる』という内容のものでした。全文が自筆で書かれており、また署名・押印もあることから自筆証書遺言としては有効であり、裁判所に検認を申し立てて執行というお話になるのが自然の流れです。

 しかし、詳しく事情をうかがったところ、私はこの自筆証書遺言をそのまま使って、相続財産である土地・建物をAさんの単独所有とする名義変更はできないと思いました。

 なぜならば、お母さんが亡くなる7~8年ほど前にお父さんが亡くなったらしいのですが、相続財産である土地・建物はいまだにお父さんの名義のままだということを伺ったからです。お父さんが亡くなった時点で遺言がなければ、相続財産である土地・建物はお母さんとAさん、そして妹のBさんの3名で相続してしまっているのです。したがって、お母さんの持ち分全部をAさん名義にすることはできるのですが、お父さんが亡くなった時点で妹さんが相続した持ち分はあくまでも妹さんのものであり、今回の事例では遺産分割協議において妹さんの譲歩が得られない限り、相続財産である土地・建物の全部を長男Aさんの単独名義にすることはできないのです。

 さらに詳しく事情をお聞きすると、Aさんは結婚もせずに身体の不自由なお母さんと同居しながら面倒を見ていたことがわかりました。特に、亡くなる1年ほど前からはお母さんはほとんど寝たきりになってしまったとのことで、Aさんは仕事も辞めて看病に専念せざるを得なかったらしいのです。きっと、お母さんはそんなAさんのためにと遺言をお書きになったのでしょうが、残念ながらこの遺言書は円満な相続に役に立つというにはほど遠く、むしろ兄妹間で新たな紛争を引き起こす可能性すらあるという結果になってしまっているのです。

 Aさんは、『妹は大企業に勤めている男性と結婚もしたし、今現在県内に一戸建ての家も持っているし、相続財産の土地・建物を欲しいなんて言わないと思う』とおっしゃっていました。しかし、妹さんが『相続財産である土地・建物などいらない』とおっしゃるかどうかは、私どものような利害関係のない専門家が『あなた(妹さん)にはこれだけの権利がありますがどうされますか』と聞いてみなければわからないことなのです。失礼かもしれませんが私に言わせれば、まだこの時点ではAさんの思い込みあるいは願望に近いと言ってもいいくらいなのです。

 私は心の中で、お母さんが数年前に遺言を書こうと思った時に相談してくれていたらと思うと残念でなりませんでしたが、Aさんには『このままにしておいても決して自然に解決することはありません。相続は時間が経てば経つほど、解決が遠のくばかりか問題の所在も相続人の関係も複雑になる一方です。すぐに妹さんと遺産分割協議に入る必要があります。私でよろしければお引き受けいたしますので、少しお考えになってみてください』とお答えしました。

 いつも私の相談は、時間を十分にかけて詳しく事情を聴きとって、具体的な解決策や必要となる費用や解決までの見通しをお示しますが、最後は相談者の意思に委ねるという流れで終わりにしています。絶対にその場で依頼を迫ることはしませんし、『こちらからご連絡は致しませんので、もしも私に依頼しようと思われたらそのときは弊事務所までご連絡ください』とお話しして、必ず一度お帰りになって冷静に考えていただくようにしています。

相続人同士が何年にもわたって裁判所で争うことほど無益で無駄なことはありません。これからも私は、ひとりでも多くの方に『当事者の話し合いで速やかに円満に解決するための遺産分割協議書』のご提案をし続けていきます。 

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加藤俊光
専門家

加藤俊光(行政書士)

相続まちなかステーション/加藤法務行政書士事務所

単身者・子どものいない夫婦世帯が人生の最終章で直面する介護や医療、金銭管理、死後の事務手続、お墓、ペットなどの切実な問題に寄り添い解決。地元の在宅医療・介護の専門職と密接な連携が取れる体制にも自信あり

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