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睡眠中に長期記憶は形成される

吉田洋一

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テーマ:運動と脳

 昨今の子どもたちの「朝、なかなか起きられない」「夜、なかなか眠られない」「朝からあくびをする」「授業中、居眠りをする」「保健室でいびきをかいて眠り込む」など、睡眠や覚醒機能の問題を心配させる「おかしさ」が顕著になっています。

 睡眠不測の時にはノンレム睡眠を優先し、レム睡眠を減少させます。したがって、レム睡眠の時間をある程度確保するためには、まず十分なノンレム睡眠の時間を確保することが必要です。つまり、長期記憶の形成には、まとまった良質の睡眠が必要になるのです。
 睡眠の重要な働きに記憶の固定があります。記憶の固定とは、日中に記憶したこと(学習や経験)を忘れないように脳に定着させることです。
 記憶には、宣言的記憶と手続き記憶があります。宣言的記憶の代表格はエピソード記憶と意味記憶です。エピソード記憶とは、「いつ何処で何があった」かに関する記憶で自伝的記憶ともいわれる「日記」のようなものです。意味記憶は、事物の意味・性質・特性など指します。例えば、歴史の勉強では「徳川家康が1603年に江戸幕府を開いた後、太平の世が264年間続いて、庶民文化が栄えた」ことを学習したとします。エピソード記憶は「庶民文化が花開いたのは、徳川家康が江戸幕府を開き、その後約250年間平和が続いたためである」というセッティング(文脈)を含んだ記憶です。一方を「江戸幕府を開いたのは徳川家康である」、「江戸幕府は1603年~1867年である」といった事実関係は意味記憶に分類されます。そして、これら宣言的記憶はノンレム睡眠およびレム睡眠の両方の働きによって固定されます。そして、レム睡眠時には,新たな記憶を既に記憶したこと(かつての記憶や経験)と関連づけるとともに、次回記憶を思い出す(想起する)際にスムーズに出来るように「索引」を付ける作業が行われます。
 また、記憶と睡眠の関係において、ノンレム睡眠-レム睡眠は異なる働きをもっています。ノンレム睡眠は、深いノンレム睡眠(一晩の睡眠の前半に多い)では、「いやな記憶」を消去する働きがあります。一方、浅いノンレム睡眠(一晩の睡眠の後半:朝方に多い)は、手続き記憶を固定する働きがあります。手続き記憶とは、自転車の乗り方や、習字、スポーツの技術などを身につける記憶のことです。また、浅いノンレム睡眠には、昼間記憶したことと過去の記憶を結合する働きもあります。これは色々な記憶を相互に関連づけることです。例えば、今日観た野球のゲームでA選手とB選手がホームランを打ったとします。A選手は満塁ホームランで4点入り勝利に貢献したのですが、B選手はソロホームランで1得点だったとします。そうすると、浅いノンレム睡眠の時にA選手のホームランと勝利の関連が記憶されるのです。言い換えると、浅いノンレム睡眠が無いと、誰のホームランがチームを勝利に導いたかが記憶されません。
 基本的な睡眠は,7時間半寝るとすると、ノンレム睡眠とレム睡眠が1セットとし1時間半で、起床までにノンレム睡眠-レム睡眠のセットが5回繰り返されます。ノンレム睡眠は、脳を休める睡眠です。一方、レム睡眠は、身体を休める睡眠です。
 人間の脳は非常に巨大化しており、更に、その重量は体重の5%であるのに基礎代謝は身体全体の20%に達します。すなわち脳は非常にエネルギー食いなのです。この脳を休ませるためにノンレム睡眠があるのです。また、レム睡眠は「夢」を見ている睡眠でもあります。就床して最初と2回目のノンレム睡眠-レム睡眠では、ノンレム睡眠は、深い睡眠です。そして、後半の2回のノンレム睡眠は浅い睡眠です。つまり、睡眠の前半では、ぐっすり寝ていて脳がしっかり休んだ状態で、少々揺すったくらいでは目覚めません。睡眠の後半では、脳はある程度活動しています。また,睡眠の前半では、レム睡眠は数十秒間の非常に短いもので、後半(朝方)では、30分近くも続く長いものになります。
 先ほどの基本的な睡眠として、7時間半寝るとすると、前半では深いノンレム睡眠が出現し、後半で浅いノンレム睡眠が出現することを思い出してください。就床後、間も無い時にしっかり寝ないと、昼間に経験した恐怖などの「嫌な記憶(嫌な感覚)」が消えず、心が癒されません。また、3時間や4時間の短時間睡眠では、浅いノンレム睡眠が無くなり、昼間一生懸命練習したことが身につかず、また、色々な出来事の関連情報が記憶されません。更に,短時間睡眠では、朝方の長いレム睡眠がないので、記憶の定着や記憶の索引付けが出来なくなります。
 以上のことからわかるとおり、我々の記憶能力を充分に引き出すには、最適な睡眠環境で充分な長さをまとまって睡眠をとることが重要です。最適な睡眠時間は個人差はありますが、6時間あるいは7時間半です。

 <学童期の子どもたちの睡眠の問題>
 日本の小・中・高校生は世界的に見ても最も夜更かしをしていることで有名です。いくら夜更かしをしても登校時間は同じですから、睡眠時間は短くなり、朝に起こされてもボーっとしたまま朝食も摂らずに登校し、日中には強い眠気をこらえたまま授業を受けている子どもが数多くいます。眠気のためにもうろうとして授業に集中できず、学習障害や注意欠陥多動性障害などの発達障害と間違われてしまったケースもあります。
 夜更かしの子どもは寝不足を週末に解消します。平日に比べて週末に3時間以上遅くまで寝ている子どもは睡眠不足があると考えてよいでしょう。週末に遅くまで寝ていると、その日の夜に眠れなくなり、月曜日の朝を辛い思いをして迎えることになります。
 夜更かしは睡眠不足を招きます。睡眠不足の子どもが成長とともに激増していることが分かります。TV・ゲーム・勉強など原因はさまざまですが「なんとなく夜更かししてしまう」子どもが最も多いことが分かっています。このような子どもたちには適切な指導が必要です。
また、前述のとおり、睡眠の重要な働きに記憶の固定があります。記憶の固定とは、日中に記憶したこと(学習や経験)を忘れないように脳に定着させることです。このように、睡眠は子どもの脳にも多大なる影響を及ぼします。

 次回に続きます。

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吉田洋一
専門家

吉田洋一(心身発達の心理士)

一般社団法人JSTC

子どもがテニスを通じて、身体の動かし方や潜在的な能力を引き出し、運動の基礎づくりをサポート。さらに子どもが主体的に取り組む大会を企画開催し、その中で対話的な深い学びを習得し、自律性を高める指導を行う。

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