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身体で覚える学習のしくみ

吉田洋一

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テーマ:運動と脳

 前回のコラムまで、脳の可塑性には「心地よい、楽しい運動」が適していることを述べました。
 今回は、「心地よい、楽しい運動」は学習にも関わっていることを解説します。

<小脳にコピーして効率アップ>
 学習とは新しい情報や知識を獲得することであり、学習した情報を保つことが記憶です。学習には、頭で知識を覚えるタイプのものと、運動や職人技のように身体で覚えるタイプのものがあります。
 頭で覚える学習は大脳が担っていて、長期にわたって神経細胞(ニューロン)におけるシナプスの情報伝達効率を上げていく、長期増強という仕組みで記憶します。
 一方、身体で覚える学習は小脳や大脳基底核にある線条体が担っています。
 運動を司る脳とされる小脳でいえば、自転車やスキーなどを練習して上手くなっていく時などに機能すると考えられてきました。
 運動の場合、最初のうちは自分で意識しながら手足を動かしますが、練習を重ねると考えなくても身体が動くようになります。
 これは、初めのうちは大脳で制御して手足を動かしていた一連の動きのイメージを、小脳が運動モデルとしてコピーしてしまうことによります。ですから、考えなくても身体が動くように感じます。
 「身体で覚える」は、大脳の意識的な情報処理を小脳でコピーして、無意識に、また効率的に行えるようにすることだといえます。
 近年では、小脳のこうした機能は運動だけでなく、思考においても発揮されることがわかってきました。
 一つの課題を考え続けていたら、ある瞬間にそれに関する解決策がすらすらと浮かんできた経験があると思います。専門的な知識を持っている人が、自分の専門分野の方法を瞬時に探し出すのも、この機能によると考えられます。思考の高度化にも小脳が働くのです。
 線条体(被殻と尾状核を合わせた領域の総称)を中心とした大脳基底核でも、運動を学習して自動的に行うようにする機能(強化学習機能)、思考の高度化につながる機能を持っています。
<学習のしくみ>
 学習機能を果たすため、小脳にも大脳基底核にも、独自の構造が備わっています。
 小脳には、小脳回路と呼ばれる構造があります。大脳から、運動を出す指令は、手足の筋肉に伝えられると同時に、小脳にも送られます。
 例えば、自転車の練習で、転んでしまうなど、その時の動きが間違っていると判断されると、それを伝えるエラー信号が、登上線維を通してプルキンエ細胞に送られます。
 するとその時に情報が通ったシナプスの伝達効率が長時間にわたって抑えられます(長期抑圧)。こうして間違いの元となった動きの伝達回路は消されていき、動きは洗練されていきます。
 線条体を中心とした大脳基底核の学習機能で使われるのは運動ループという回路です。大脳皮質からの信号は線条体に送られ、そして視床を通って、大脳皮質へフィードバックされます。大脳基底核の回路では、小脳の長期抑圧のしくみと異なり、正しい動きをした時の報酬として神経伝達物質のドーパミンが使われることで、学習が強化されていきます。
 大脳基底核のこのループに障害が起きると、パーキンソン病などの疾患が起きると考えられています。
 次回に続きます。

 今年のコラムは本日で終了いたします。
 今年最後のコラムに、最も重要な「身体で覚える学習のしくみ」を皆様にお伝えしました。
 頭で覚える学習ではなく、「身体で覚える学習」に子どもたちの心身を救うヒントがあります。
 そして、相手に勝つスポーツという運動ではない、「心地よい、楽しい運動」は子どもたちの心身を救うと信じて活動しています。
 今後とも、活動の内容が多少違っていても、今の子どもたちの心身に危機感をもって活動をしている私たちにご支援を賜りたいと思います。
 子どもたちがどんな境遇にさらされても、「自分が自分でいいんだ」と思える世の中になりますように。
 
 訪問してくださっている皆様のご多幸をお祈り申し上げます。
 
 

 

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吉田洋一
専門家

吉田洋一(心身発達の心理士)

一般社団法人JSTC

子どもがテニスを通じて、身体の動かし方や潜在的な能力を引き出し、運動の基礎づくりをサポート。さらに子どもが主体的に取り組む大会を企画開催し、その中で対話的な深い学びを習得し、自律性を高める指導を行う。

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