身体で覚える学習のしくみ
非陳述記憶には、自転車乗りやギター演奏など意識を伴わない技術や癖などの「手続き記憶」があります。その記憶は主に小脳と大脳基底核にある被殻や尾状核に保存されます。
前回のコラムでいう「運動」です。「運動」は、自ら行う「身体運動」です。つまり、自主的な能動的運動です。
前回のコラムで紹介した「体育」や「スポーツ」は、教えられる記憶として、神経細胞(ニューロン)の受容体を増やし、情報伝達の効率や強さを長期増強させることで記憶するものでした。
ところが、自ら行う「身体運動」は、前述の「体育」や「スポーツ」とは全く逆の仕組みで記憶が保存されます。
小脳には、プルキンエ細胞と呼ばれる神経細胞(ニューロン)がたくさんあります。例えば、スキーを初めてしたとき、なかなかバランスをうまくとることができないので、何度も転んでしまいます。最初のうちはこうした全ての情報がプルキンエ細胞へ伝わります。
が、しかしプルキンエ細胞には、失敗や無駄な動作などの間違った動作情報だけを伝えにくくする仕組みがあるのです。そのため、何度も繰り返すことで、間違った動作情報は伝わらなくなり、正しい動作情報だけが伝わるようになります。これを「長期抑圧」といいます。
こうして、何度も繰り返し練習することで、少しずつ無駄な動きがなくなっていき、スムーズに滑ることができるようになっていきます。
大脳皮質では、記憶や認知機能関連の回路に関連し、また、運動に大きく関わっています。運動に関わる神経のうち、延髄の錐体を通る経路を錐体路(皮質脊髄路)といいますが、自らの意図に基づいて身体を動かす随意運動を司っています。大脳皮質から運動指令が出ると、その一部が大脳基底核に伝わります。すると大脳基底核は、姿勢を制御し、滑らかに運動するための信号を視床経由で大脳皮質に伝えます。
当然ながら、テニスやスケートなどのスポーツにおいても、最初こそうまくラケットを扱えなかったり、転んだりしますが、経験を積むと身体が覚えていきます。このように「運動の学習」は、小脳や大脳基底核の働きによるものなのです。
前回の「教えられる記憶」と何が違うのでしょうか。それは、運動する者が自ら身体を動かし、自分で覚えようとする「能動的記憶」だからなのです。
次回に続きます。