その子の内側の体験の世界5
動物は、普通は衝動や欲求をコントロールしたりはしません。生存に必要だからです。生物的・生命的な衝動や欲求に従って行動することで、生存確率を高めています。人間も本来はそうに違いありません。
しかし、人間は高度な社会をつくり上げ、共同的に生きるようになりました。そこで個々人がめいめいの衝動や欲求のまま行動していたら、社会は成り立ちません。このため人間に限っては、社会の規範に従って衝動や欲求をさらにそれに伴う様々な情動をあえて自力でコントロールする必要が生じました。つまり、この自己コントロールの力は、先天的に備わった生物的な力ではなく、後天的に習得される「社会的な力」と考えられます。
このため、関係(社会性)の発達に一定以上おくれをもつ場合、多かれ少なかれ、衝動や欲求の自己コントロールが不得手になりやすくなります。
生命的・生物的なものから始まり、やがて対人的や社会的なものにいたるまで、人間は様々な衝動や欲求に出会いながら生活を送っています。それらを社会的なルールや状況に合わせて、あるときは抑える努力を、あるときは満たす努力を使い分けながら自分の行動をコントロールしていく力やそれによって何かを実現していく力は、通常「意志」と呼ばれています。
これは社会を生きるうえで極めて重要な力です。しつけの大きな役割は、この意志の力の土台をつくることにあります。
次回に続きます。