「アストロサイト」の異常が神経発達症(発達障害)に関わっている
前回の米国の研究チームであるソーク研究所の神経科学者のニコラ・アレン氏他は、アストロサイトはダウン症群やレット症候群、脆弱X症候群との関連でも知られていたが、どのように両者が関与しているのかはわかっていなかった。ダウン症の症状には発語や発達の遅れがあり、レット症候群の症状には言葉の喪失や成長速度の低下、呼吸の問題があり、脆弱X症候群の症状には言葉の遅れや学習障害、筋肉の協調の問題があります。それぞれの疾患をもつマウスの脳細胞から採取したアストロサイトを分析し、次のような成果を得ました。
三つの疾患のいずれの神経細胞(ニューロン)は、神経突起伸長とシナプスの形成が少ないことがわかりました。これは、アストロサイトがうまく機能していない現象でした。
また、正常な細胞と比較した結果、三つの疾患の細胞で、88種類のたんぱく質と約11の遺伝子における分泌量と発現量が増加することを突き止めました。ただし、ある遺伝子の発現が増加すれば、それに関連するたんぱく質も増加するという相対性はみられなかったのです。これは、遺伝子の発現だけに注目するのではなく、異なる疾患ではタンパク質にも注目しなければならないという発見でした。
三つの疾患の全てで急増したたんぱく質が発見されました。
その一つは、「IGFBP2」と呼ばれるたんぱく質です。「IGFBP2」は、脳の発達を助けるホルモンであるインスリン様成長因子(IGF)の遺伝経路を阻害します。
アストロサイトがこの阻害因子をつくりすぎているのではないかとの疑問から、このたんぱく質の分泌の抑制のために、レット症候群の生きたマウスに「IGFBP2」の分泌を阻止する抗体を投与した結果、神経細胞(ニューロン)がより正常に成長することが判明しました。
もう一つは、「BMP6」と呼ばれるたんぱく質です。「BMP6」は、アストロサイトの成熟を制御しています。このたんぱく質の分泌の抑制のために、脆弱X症候群の生きたマウスに「BMP6」の分泌を阻止する抗体を加えたところ、神経細胞(ニューロン)の神経突起は成長しました。
また、「BMP6」が増えると「IGFBP2」も増える可能性があり、これがいろいろな脳の機能不全を引き起こしている原因ではないかと述べています。この二つのたんぱく質は相互に関連しているようです。
この研究から神経発達症(発達障害)の脳では、アストロサイトがうまく機能していないことが判明し、アストロサイトの異常を突き止めたのです。また、神経細胞(ニューロン)とアストロサイトの連携が妨げられると神経疾患につながることを示したものです。
アストロサイトは、脳にエネルギーを供給しています。神経細胞(ニューロン)は血管と直接コンタクトしていないので、エネルギーを摂ることができません。そこで、血管を取り巻いているアストロサイトが、グルコースという栄養を取り込み、神経細胞(ニューロン)が使えるようにしてから与えています。
神経細胞(ニューロン)だけに焦点を当てるのではなく、血管と直接コンタクトしているアストロサイトに注目し、脳機能疾患の治療法の確立につなげ、研究の機会を増やしていくことが必要です。と述べています。
次回に続きます。