診断はできなくとも支援はできる
<部分的な発達のおくれとは>
ここからは全般的な大きな発達のおくれはないけれど、何らかの特定の発達領域に限って明らかなおくれがみられるものを述べます。これは、学習障害とADHDです。
もちろん、どこまでが「全般的」でどこからが「部分的」か、画然と分かれるものではありません。全体と部分はつながっています。すでに述べたとおり、知的障害、自閉症スペクトラム、学習障害、ADHDなどは互いにつながりや重なりをもっていて、少なくとも症状(行動)レベルでみるかぎり、これらの間にはっきりした境界線は引けないのです。その事実も含めて、これらの発達障害について解説していきます。
全般的なおくれはなく、ある発達領域だけが取り残されたようなおくれをみせるものがあります。特異的発達障害と注意欠陥多動性障害です。
特異的発達障害は、ある特定の能力だけが特異的・限局的におくれる学習障害です。おくれるのは言葉・読み書き・計算など学習を通して習熟される能力のため「学習障害Learning Disorder」の呼び名が生まれ、今はこの名で通っています。極端な手先の不器用さやいわゆる運動神経の鈍さも「発達性協調運動障害」と呼ばれて学習障害に入ります。はさみを使ったり自転車に乗ったりするわざも、学習を通して身に付ける能力だからです。
注意欠陥多動性障害は、注意集中や衝動コントロールの力の発達だけがおくれる注意欠陥多動性障害(ADHD;Attention defict/hyperactivity disorder)です。乳児期には子どもはみんな注意の集中持続や衝動のコントロールはできません。一般には成長につれてそれらの力が発達してくるのに、それの部分だけが大きくおくれるのです。
また、障害が全体的か部分的かをクリアカットできないのは、認識の発達と関係の発達は支え合っているためです。知的障害と自閉症スペクトラムとはつながっています。さらに知的障害や自閉症スペクトラムの子どもは、言葉や読み書きや計算などにしばしばおくれをもち、学習障害と同様の問題を示します。注意集中困難、多動、衝動性も、ADHDとは限らず、知的障害や自閉症スペクトラムにも多かれ少なかれみられます。ADHDの子どもが、学習障害のような知的能力にみあわない読み書きや計算の不得手さを示す場合もあります。
参考文献 子どものための精神医学 滝川一廣著