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被相続人の死後に隠し子の存在が判明したら?

森欣史

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テーマ:遺産相続争いの実態

 前回は、前妻の子と後妻の間での、遺産分割の難しさをお伝えしました。なお、前号では話を簡潔にするため、被相続人と前妻の間には子がいるが、後妻との間では子がいない場合でのお話しでしたが、後妻との間の子がいる場合にも、同様の難しさがあることはご想像できるかと思います。

 さて、今回は、「妻以外の女性」との間で産まれた子についての、相続に関するお話しです。「妻以外の女性」というと、いわゆる「愛人関係」や「不倫関係」、つまり「既婚男性」と「未婚女性」、「既婚男性」と「妻以外の既婚女性」の組み合わせを思い浮かべるかもしれませんが、それ以外に「未婚男性」と「既婚女性」、「未婚男性」と「未婚女性」という組み合わせも含まれます。また、「未婚男性」と「未婚女性」の組み合わせの場合には、いわゆる「内縁関係」といって、婚姻の意思と共同生活(同棲)の実態がありながら、婚姻届を出していない状況も含まれます。

 法律上の婚姻関係がない男女の間に生まれた子どものことを「非嫡出子(ひちゃくしゅつし)」といいます。しかし、その子と父親の間に法律上の親子関係が生じるのは、父親が「認知(自分の子として認めること)」をした場合です。これに対して、母親と子の関係については、分娩の事実によって客観的に親子関係が判断できるため、法的な親子関係の発生のためには認知は必要ないというのが最高裁判例です。

 つまり、わかりやすく言えば、ある未婚の女性から産まれてきた赤ちゃんの父母について、父親は、その子が自分の子であるということ、つまりその女性が妊娠した時期に、性的な交渉を持ったという「覚えがあり」、また、その赤ちゃんの外見や血液型などから判断しても、どうやら自分の子供らしいというような場合には、その子を「認知」して、法律上の父子関係を生じさせることができるということです。

 これに対して、母親については、通常は「あかちゃんは母親のおなかから産まれてきたのだから、母親の認知を待つまでもなく、当然に母子関係は生じる」ということです。なお、女性が既婚女性で、夫以外の男性と性的な交渉を持った結果として生まれてきた子については、法律上は「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」となっているため、話が異なってきますが、このコラムのテーマはあくまで相続ですので、ここでは深入りしないことにします。

 さて、ある未婚の女性から産まれてきた子について、この人が父親であろうという人物が認知をしなかったら、どうなるでしょうか? その場合には、子やその母親は、裁判所に認知の訴えを提起することができます。この認知の訴えは、父親が亡くなった後でも3年以内なら、請求することができます。

 遺産相続では、亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までの戸籍を遡って、相続人の調査を行います。しかし、相続人となる子は、実子と養子に限られます。実子には、婚姻関係にある男女間に産まれた子である「嫡出子」と、上記のような婚姻外の男女間で産まれた子である「非嫡出子」が含まれますが、認知されていない子は、例えDNA鑑定など様々な証拠から、生物的にはその父親の子であることが確実であっても、法律上の親子ではないので遺産の相続権はありません。そのため、その子が遺産の相続権を得るためには、裁判による強制認知の手続きが必要となりますが、父親はすでに死んでしまっているので、検察官を被告として認知の訴えを提起する事になります。そして、勝訴判決が確定すると父子関係が法律上確定します。これを「死後認知」といいます。

 なお、認知の効力は子供の出生時にさかのぼって生じますので、死後認知でも父親が亡くなった時から認知された子は相続人であることになります。その際に問題となるのが、その父親の相続についての遺産分割協議です。遺産分割協議がまだ終わっていなければ、その認知された子も含めた相続人全員で協議を進めていけばいいのですが、認知の裁判が確定した頃には、遺産分割協議はとっくに終わってしまったという場合には、どうなるのでしょうか?

 遺産分割協議は相続人全員で行わなければ無効となります。しかし、民法では「相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。」と定めていますので、遺産分割のやり直しを求めることはできません。この場合は、遺産分割協議後に認知された子は、相続分に応じた価額のみによる支払請求ができるということになります。

 なお、認知された子は非嫡出子となります。従来、非嫡出子の法定相続分は嫡出子の2分の1になると民法900条4号ただし書で規定されておりましたが、2013年9月4日の最高裁決定により、この規定は法の下の平等を定めている憲法に違反するということで無効とされ、その後の民法改正により削除されました。そのため、現在では、非嫡出子の法定相続分は、嫡出子と同じになっています。

 以上のように、法律論を中心に説明してきましたが、実際の現場ではどうなのでしょうか? 私は、今のところ、実務ではこのような話に出会ったことはありませんが、相続人としては、遺産の「分け前が減る」以上に、複雑な感情になることでしょう。また、テレビドラマ的には「遺産目当てに、実は私は故人の隠し子だった」と名乗り出る人が多数出てくるような事態も、被相続人が大富豪で性的に奔放であった場合には、ありえるのかもしれませんね。

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森欣史
専門家

森欣史(司法書士)

金沢みらい共同事務所(森司法書士・行政書士事務所)

遺産相続は時として相続人の生活や人間関係を破壊してしまうため、細心の注意を払って対応。故人との思い出や相続人同士の絆を守るため、スムーズな相続手続きと、失敗を防ぐ生前からの相続対策を指導している。

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