<専門医が解説>3年間で421件のインプラント事故・・・これって多いの?
1.歯科用CTの優位性、レントゲン写真との比較
80年代に医療現場にX線CTが普及し始めて、2000年頃からは歯科の領域でも骨や歯など硬い組織を診るのに特化した歯科専用のコーンビームCTが登場してきました。歯科用CT自体が非常に高価な検査機器であること、医科用のヘリカルCTに比べると、放射線の被ばく量は少ないメリットがあるものの、骨と歯しか見れない守備範囲の狭さや、都心部の歯科医院は間取りにゆとりがないことなど、普及は割とゆっくり進んでいる感じです。近頃はインプラント治療を安全に行うために必要なアイテムとして、一部の歯科医院や専門家が盛んに宣伝と啓蒙活動を行っていることもあって、歯科用CTは患者さんからも注目を浴びています。
歯科医院の派手な宣伝・・・違和感を感じるのは私だけでしょうか
歯科用CTの優れた点を説明する際に、レントゲンと比較する形でよく言われるのは、レントゲン写真では像が歪んでしまうことがあること、写真は2次元的なので病変や、歯や骨の奥行きが分からないこと、「立体的にどうなっているのか?」が把握しにくいことなどが欠点として挙げられます。
それでも撮影の方法や写真の読み方によっては、顎周りや歯の周囲のレントゲン写真だけでもかなりの情報が得られますが、歯科用CTを導入した歯科医院としては、最新設備を宣伝し強調することで、他の歯科医院との差別化を図りたい経営的意図があるのかもしれません。
2、被曝の問題=歯科用CTだって無害ではありません
誤解がない様に先に申し上げておきますが、私はCT反対派ではありません(笑)。現在のCTの性能は凄いものです。新しいCTで撮影条件がバッチリ決まっていれば、直径3~4ミリの病変も確認できます。
レントゲン写真の撮影で被ばくする??レントゲンの安全性と放射線の話
私が大学病院の口腔外科でインプラント専門外来を担当させていただいていた2003年頃、やはり安全性を考慮して、インプラント手術を予定した患者さん全員に事前にCTを撮影させていただきました。
当時は歯科用CTはまだ発展途上でイマイチな印象でしたし、インプラント診断用のソフトがオプション装備された医科用のヘリカルCTが病院にあったので、それで治療計画を行っていました。かなりきれいな立体画像が得られるので、大変重宝しておりました。
その後、勤務医として各所でインプラントを行う際にも、事前診断として血液検査と合わせてルーティーンで撮影を行っておりましたから、これまでインプラント治療を行った患者さんで、最初の200名ぐらいの患者さんには全員撮らせていただいていると思います。したがって「CTが正しく活用されれば確実な術前診断ができる」ことはよく分かっているつもりです。
インプラントの疑問を解決 インプラントカウンセリング
しかし経験上で申し上げれば、本当に全員CT撮影が必要だったのは疑問です。なぜなら、
1)レントゲン写真と比較してCTは放射線の被曝線量(被ばく線量)が大きいこと、
2)レントゲン写真だけで周囲の状況から十分な事前情報が得られるケースもあること、
3)事故防止の観点からは、解剖学的に鼻に近い場所ではない場合や、神経や動脈(血管)などがない場所では、撮影の意味がうすいこと、
などを考えると、放射線被爆のリスクとCT撮影のメリットを天秤にかけた際に、避けられる被曝は避けるべきですし、必ずしもCTの撮影が必要とは思えません。
3.日本はCT大国、インプラント手術の技術とCT検査は別物
日本の医療現場では年々CT撮影件数が増加しています。統計的にアメリカと比較しても人口100万人に対して、26スキャン(撮影回数)のアメリカの倍以上、64スキャンも撮影されています(1996年時点)。高度な検査が行われること自体が悪いわけではありませんが、医学的に本当に必要な検査かどうかが問題です。高価な機械を遊ばせておくわけにはいかないために、稼働率を上げ、元を取るための検査になっていないでしょうか?あるいは「一応CTを撮っておくか…」というような習慣になっているのではないか?と思わないでもありません。歯科においても各医院に普及し始めると、そんな悪習慣が定着してしまう懸念があります。
ブリッジとインプラントの比較 ブリッジはホントに安全?
また、これは本質的な話になってしまいますが、事前にCTを撮影し、インプラントを埋め込む位置、深さ、角度などについてミリ単位で精密に検討を行って予定を立てても、その予定通りの位置や角度に寸部の狂いなく埋め込む手術スキルがなければ意味がありません。術前のCT撮影はあくまでも下調べの一部、術後の撮影は確認のためのものにすぎません。したがって、「歯科用CTはインプラント手術の安全性を担保するものではない」ということです。
主治医以外の歯科医師の意見を聞く=セカンドオピニオンをご存知ですか?
よく歯科医院の宣伝や専門家のコメントとして、「歯科用CTがあるから安全」とか「CTを撮ってないからトラブルが起きた」といった一般の方々、患者さんに誤解をまねくような記載がなされていますが、歯科用CTは診断の道具にすぎず、インプラント手術を為すのは歯科医師であることを忘れてはなりません。インプラントの安全性のためには他にも考慮することがあるのではないかと思いますが、皆さんはどう思われますか?
つくば・土浦の歯科口腔外科/インプラント治療の専門医
つくばオーラルケアクリニック http://www.tsukuba-occ.com/
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